はじめての古事記

 

 世界に光が戻った後、混乱の原因を作ったスサノヲノミコトは高天原から追放されました。
 出雲国(いずものくに)(現在の島根県)の斐伊(ひい)川にたどり着いたとき、年老いた男女とその娘とに出会いました。彼らは、八つの頭に八つの尾を持つ巨大な蛇ヤマタノヲロチに毎年一人ずつ娘が喰われることを嘆き、泣いていたところでした。最後の一人となったクシナダヒメを自分の妻にすることを条件に、スサノヲノミコトはヤマタノヲロチを退治することを約束します。
山や谷が八つ重なったほどに巨大な蛇を倒すために、濃く強い酒を造り、垣根と門と桟敷(さじき)を八つずつしつらえて、それぞれにたっぷりと酒の入った槽(おけ)を用意して待ち構えました。そこに現れたヤマタノヲロチは、八つの槽に八つの頭を入れて酒を飲み、酔って寝てしまいました。すかさず、スサノヲノミコトは剣を抜いてヤマタノヲロチを倒します。その尾を切り裂くとすばらしい大刀(たち)があったので、取り出して天照大御神(あまてらすおほみかみ)に献上しました。これが熱田神宮の神宝である草薙剣(くさなぎのつるぎ)だと伝えられています。
 こうしてスサノヲノミコトはクシナダヒメと結婚しました。須賀(すが)の地に新居を建てて
  八雲(やくも)立つ出雲八重垣(いずもやへがき)妻籠(ご)みに
  八重垣作るその八重垣を
と、日本最初の和歌を詠(よ)んだということです。
 乱暴者が一転して英雄になるのは、地上を平定する神の先祖とされたからだといわれています。
(本文 万葉文化館 井上さやか)

編集部の古事記コラム
 今回のお話のように、蛇がでてくる神話は世界中にあるようです。
 ギリシア神話には、9つの頭を持つヒュドラーや、髪の毛が蛇のメドゥーサ、北欧神話には巨大な蛇のヨルムンガンド、インド神話では、蛇と人が同化したようなナーガ、アステカ神話には羽根のある蛇という意味のケツァルコアトルが登場します。
 中でもヒッタイトの神話に登場するイルルヤンカシュという蛇神は、泥酔している隙に倒されるところが、ヤマタノヲロチの話に似ているそうです。
 世界の神話には共通のルーツがあるのかも知れませんね。

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