希少野生動植物の保護 Q&A

<一般編>

   問1 なぜ、希少野生動植物の保護が必要なのですか。

   問2 なぜ、野生動植物は減少しているのですか。

   問3 シカやイノシシなどは希少野生動植物ですか。

   問4 ツキノワグマは、希少野生動植物ですか。

   問5 マツタケは希少野生動植物ですか。

<条例編>

   問6 同じような条例が他の都道府県にもありますが、奈良県の条例の特色は?

   問7 特定希少野生動植物とは何ですか。また、どうやって指定されるのですか。

   問8 特定希少野生動植物にはどのような野生動植物が指定されるのですか。

   問9 特定希少野生動植物が指定されるとその個体はどのように取り扱われますか。

   問10 生息地等保全地区とは何ですか。また、どうやって指定するのですか。

   問11 どのような区域が生息地等保全地区に指定されるのですか。

   問12 生息地等保全地区に指定されたときに、規制に伴う損失補償はあるのですか。 

   問13 保護管理事業計画とは何ですか。
 
   問14 この条例でいう外来種とは何ですか。

   問15 外来種に関してどのような施策を考えているのですか。

   問16 この条例では「県民等との協働の推進」を掲げていますが、どのようなことに取り組むのですか。

   問17 この条例に違反した場合、罰則はありますか。

   問18 この条例の実効性を高めるためには巡視体制の整備も必要ですが、どのようになるのですか。



 問1 なぜ、希少野生動植物の保護が必要なのですか。

 私たちは、多種多様な野生動植物が織りなす自然から、大気や水、食料、木材、医薬品など生活の糧を、そして心の潤いと安らぎや暮らしの安全など、多くの恵みを受け取っています。
 しかし、今、野生動植物は、恐竜が滅んだ時代よりもはるかに速いスピードで絶滅しています。主な原因は人間の活動によるもので、この数百年の絶滅スピードは、過去平均の1,000倍に加速したともいわれています。
 希少野生動植物の絶滅は、多種多様な野生動植物によって保たれてきた生態系のバランスを崩していきます。生態系のバランスが崩れると、生態系の一員である私たち人間の暮らしも、大きな影響を受けます。例えば、約100年前のオオカミの絶滅は、シカの個体数増加を招き、農作物に対する食害が増加する一因となっています。

 問2 なぜ、野生動植物は減少しているのですか。

 県内の野生動植物を調査した奈良県版レッドデータブックによると、野生動植物が希少になった主な要因は、

   1 開発などの土地の形質変更に伴う生息・生育地の改変
   2 愛好家や業者による過剰な捕獲や採取
   3 人の手が入らないことによる里地里山の荒廃、植生の遷移 
   4 自然環境へ導入された外来種との競合等

 であることがわかりました。

 


 問3 シカやイノシシなどは希少野生動植物ですか。

 シカ、イノシシ、サルは、個体数が増加しており、生息分布域も拡大しています。ですから、希少野生動植物ではありません。
 むしろ、農林業へ被害を与えたり、森林の下層にある希少な植物を過度に摂食するなど生態系への被害も発生していることから、個体数を減らすなどの、個体数管理が必要になっています。

 ページの先頭へ戻る

 問4 ツキノワグマは、希少野生動植物ですか。

 ツキノワグマは、奈良県版レッドデータブックでは「絶滅寸前種」に選定されています。(環境省版RDBでは「絶滅のおそれのある地域個体群」)
 このため、ツキノワグマは希少野生動植物です。
 現在、鳥獣保護法に基づいて、保護と防除のバランスを図りながら保護管理の取組みを行っていますが、近年、人家周辺への出没や人工林への剥皮被害など、人間生活との接点が増えてきています。このため県では、ツキノワグマの個体数や生息分布域に関する調査を行い、現状の把握に努めています。

 問5 マツタケは希少野生動植物ですか。

 マツタケ等の菌類は、県内の生育の状況、生育地の状況などについての情報が充分ではないため、奈良県版レッドデータブックでは調査対象の分類群としていません。
 他県のレッドデータブックでも、菌類を対象にしているものは11県のみです。
  マツタケは、平成19年度に改訂された環境省版レッドリストで初めて、生育環境が限定されているとして「準絶滅危惧」に選定されました。本県においても同様の状況が推測されますが、判断ができるだけの充分な情報がなく、まずは情報を集めることが必要と考えています。

 問6 同じような条例が他の都道府県にもありますが、奈良県の条例の特色は?

 本県の条例の特色としては次のようなことがあげられます。
 
       ・県民との協働を推進することを柱として、各種施策を盛り込んでいること。
        ・特定希少野生動植物、生息地等保全地区の指定、保護管理事業計画の変更について、県民の皆さんか
     ら提案できる制度を導入していること。
        ・外来種の生息・生育状況等を把握し、情報提供するなど、外来種に関する施策を盛り込んでいること。
        ・希少野生動植物の生息等環境としても非常に重要な位置を占めている「里地里山」のうち、特に保全が 
    必要として指定する区域において、農林業の生業の安定のために必要な措置を講ずること。

ページの先頭へ戻る

 問7 特定希少野生動植物とは何ですか。また、どうやって指定されるのですか。

 県では、希少野生動植物のうちから特に保護の必要がある種を、特定希少野生動植物として指定します。指定にあたっての基本的な考え方は、「奈良県希少野生動植物の保護に関する基本方針」に定める予定です。
(指定される種については次項をご参照ください。)
 この、基本方針や県民の皆さんからの提案を参考にして、希少野生動植物保護専門員の助言を得て、選定案を作成します。
 そして奈良県自然環境保全審議会の諮問を経た後、希少野生動植物の所有者や、販売業者など、利害が関係する方々のご意見も踏まえつつ、特定希少野生動植物が指定される運びとなっています。

 問8 特定希少野生動植物にはどのような野生動植物が指定されるのですか。

 県内で生息等が確認された野生動植物約9,000種のうち、希少野生動植物は1,115種ですが、その中から「絶滅寸前種」に選定された290種を中心に指定する予定です。
 指定にあたっての基本的な考え方は、奈良県希少野生動植物の保護に関する基本方針に定める予定です。
 基本方針がまだ策定されていませんので、対象になる種についても検討している段階ですが、検討材料の候補としては、主として過剰な捕獲・採取により希少となっている、花が美しいサクラソウ科やラン科の植物、チョウ目の昆虫類、本県の自然特性を象徴するような本県固有の動植物などがあがっています。
 なお、種の保存法によって環境大臣が指定した国内希少野生動植物種及び緊急指定種や、鳥獣保護法、文化財保護法等他の既存制度に基づき指定されて、既に保護されている種については、重複指定を避けるなどの措置も検討しています。

 問9 特定希少野生動植物が指定されるとその個体はどのように取り扱われますか。

 特定希少野生動植物の生きている個体は、捕獲、採取、殺傷又は損傷が禁止されます。
 ただし、学術研究、繁殖を目的として許可を受けた場合や、人命の保護や農林漁業を営む目的等、やむを得ないと認められる場合は除きます。
  また、違法に捕獲等された個体や、その個体の器官又はこれらの加工品についても、譲渡し、譲受け、引渡し、引取り及び所持を行うことが禁止されます。
 なお、合法的に捕獲等された個体についても、本来の目的とは異なる営利や愛がん・鑑賞目的などのために譲渡し、譲受け、引渡し、引取り及び所持を行うことは禁止されています。

ページの先頭へ戻る

 問10 生息地等保全地区とは何ですか。また、どうやって指定するのですか。

 生息地等保全地区とは、特定希少野生動植物の生息・生育地など、特定希少野生動植物の保護を目的として指定する区域のことです。
 生息地等保全地区では、建築物の新築、宅地の造成、土石の採取、特定希少野生動植物の生息等に支障を及ぼすおそれのある動植物の放逐や植栽、同じく支障を及ぼすおそれのある物質の散布などの行為が規制されます。
 指定する区域は、特定希少野生動植物の生息・生育地以外にも、これらと一体的に保全を図る必要がある区域も含まれ、分布状況及び生態などを考慮して指定します。
 今後、指定にあたっての基本的な考え方を、奈良県希少野生動植物の保護に関する基本方針で定める予定です。
 この基本方針や、県民の皆さんの提案を考慮しながら、希少野生動植物保護専門員の助言を得て選定案を作成します。
 選定案は奈良県自然環境保全審議会へ諮問され、同時に、指定をしようとする区域の住民の皆さん、その区域で希少野生動植物を所有している方、あるいは開発等を予定している事業者など、利害が関係する方々の意見を聴きます。
 このように、条例で定める手続きを経て、生息地等保全地区を指定します。

 問11 どのような区域が生息地等保全地区に指定されるのですか。

 希少野生動植物が多く生息等していて、特に重要な地域である里地里山のため池や湿地など、身近な二次的自然環境である区域を指定することを考えています。
 比較的自然度の高い区域については、優れた自然の風景地を保護することを目的にした自然公園法など他の法律で既に規制がかかっていますので、今までの制度の対象にならなかった区域を中心に指定します。
 また、種の保存法などと同じく、規模要件は設けず、必要最小限の面積(例えば、ため池一つなど)での指定を予定しています。

 問12 生息地等保全地区に指定されたときに、規制に伴う損失補償はあるのですか。

 適法な公権力の行使によって加えられた経済上の“特別の犠牲”に対し、全体的な公平の見地からこれを調整するために、通常生ずべき損失について補償する旨の規定を設けています。
 具体的には「管理地区内での許可行為の不許可」、「許可への条件付加」又は「監視地区の届出行為に対する措置命令」によって従前の利用が制限される場合に、“特別の犠牲”に該当するとして、補償の対象としています。
 これは、例えば、管理地区に指定された区域で、林業経営のため植林した木竹の伐採が許されないことから林業経営が不可能となり、土地の収奪に等しい損失が発生した場合などであり、これまで植林等に要した費用を補償(実損補償)することになります。

ページの先頭へ戻る

 問13 保護管理事業計画とは何ですか。

 希少野生動植物の保護にあたっては、規制措置だけではなく、生息地等の保全及び再生等を図るための積極的な保護管理事業を行うことも大切です。
 一方で、保護管理事業を行う場合には、行政のみならず、地域の自然と調和を保ちながら暮らしてきた住民の皆さんや積極的な保護活動を行っているNPOと協働しなくては、実効ある保護対策を進めることはできないと考えています。
 そのため、必要な対策を時機を失することなく、各主体が同じ方針に基づいて計画的に進めるうえで、可能な限り科学的なデータ等をもとにして、県が特定希少野生動植物ごとに事業計画を策定する必要があると考えています。このような事業計画を、この条例では「保護管理事業計画」と称しています。

 問14 この条例でいう外来種とは何ですか。

 意図的・非意図的に関わらず県内に導入されることにより、その野生動植物が有する移動能力を超えて本来の生息地等の外に生息等をすることとなる野生動植物をいいます。
 「外来種」は様々な問題を引き起こすとされており、希少野生動植物に対する捕食や競合、遺伝子汚染、生態系のかく乱等の影響が、一般的に指摘されています。
 また、この条例では、国外からのみではなく、国内であっても県外から導入される野生動植物についても外来種に含めています。これは、国内・国外を問わず県内に本来生息等していなかった種が導入されることで、近縁種である県内の希少野生動植物との生存競争が起こり、生息等が脅かされるおそれがあるからです。

 


 問15 外来種に関してどのような施策を考えているのですか。

 外来種の生息・生育状況や被害状況を調査し、基礎情報として蓄積するとともに、県民の皆さん、旅行者、滞在者及び事業者へそれらの情報を提供し、外来種の問題についての理解を深め、本県の自然環境への意図的な導入をこれ以上増やさないように取り組むことが、まず必要だと考えます。

ページの先頭へ戻る

 問16 この条例では「県民等との協働の推進」を掲げていますが、どのようなことに取り組むのですか。

 県民の皆さんと幅広い主体との協働を推進するためには、希少野生動植物の生息等の現状やその保護の重要性に関する情報を、積極的に提供し、理解を得ることから始める必要があると考えます。
 このため、
・幅広い主体とともに希少野生動植物の調査及び研究を行うことによる基礎的情報の収集
・多様な場で多様な手法を用いた適切な情報の発信及び共有、
・特に本県の次代を担う子供たちが自然に触れ、生物多様性の大切さについて身近に感じることができる機会の拡大のための施策
を推進する予定です。
 さらに、希少野生動植物の保護に関心を持つ県民の皆さんが、特定希少野生動植物や生息地等保全地区の指定や保護管理事業など比較的専門性の高い活動だけではなく、それぞれのレベルに合わせた活動へ参画できる基盤づくりに努め、本県全体として希少野生動植物の保護に関する気運を醸成し、自発的な活動を促進するための施策を推進する予定です。

 問17 この条例に違反した場合、罰則はありますか。

 条例の実効性を担保するため、「捕獲等の禁止」、「譲渡し等の禁止」、「管理地区の規制」、「監視地区の規制」などに違反した者に、懲役刑又は罰金刑を科します。
 罰則の内容については、捕獲等の禁止に対する違反の場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金としています。
 また、法人に所属する者がその業務に関して違反行為をした場合には、行為者だけではなくその法人にも罰則を科します。

 問18 この条例の実効性を高めるためには巡視体制の整備も必要ですが、どのようになるのですか。

 各種規制の実効性を担保するためには、希少野生動植物の個体の生息等の状況等を巡視し、指導する体制を整備する必要があると考えます。行政職員のみならず、地域住民あるいは意欲のある県民によって監視する機会を増やすことは、違反行為を抑止する力になります。
 そのため、地域の事情に精通した自治会・老人会等地域住民団体や、対象となる地域において保護活動の実績を有する自然保護団体等を「希少野生動植物保護巡視員」や「希少野生動植物保護巡視団体」に認定し、積極的な活動をしていただくことを考えています。