菱形か、市松か?―当館蔵《金銀彩羊歯模様大飾皿》から(2023年8月24日)

 前回に続き、「どう展示するのが最良なのか悩む」作品をもう一つ。それが1960年に制作された当館所蔵の《金銀彩羊歯模様大飾皿》(出品番号98)ですが、なぜ悩むのかの前に、本作の模様であり富本の代表的な創作模様である羊歯模様について、まず紹介しておきましょう。

 羊歯模様は富本自身が『富本憲吉模様選集』(中央公論美術出版、1957年)などで解説しているとおり、羊歯の葉4枚を菱形に収めた模様です。羊歯に対して富本は早くから関心を持っていたようで、1910年~1920年代に描いた素描が残っていますし、『富本憲吉模様集(三冊)』(1923~1927年刊行)にも羊歯の模様を数図収録しています。陶芸作品としては《赤絵羊歯模様大角陶板》1935年・当館蔵(出品番号144)【図版1】などの例がありますが、この作品では羊歯が生えている様子を写生的に表しています。

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【図版1】《赤絵羊歯模様大角陶板》1935年・当館蔵

 よく知られる羊歯模様が完成したのは1952年ごろのことです。5、6枚の葉で一株とするのが実際に近いところ、4枚で一単位として菱形に収めることで、連続させやすくしたのです。しかも4枚の羊歯の葉をただ上下左右に並べるのではなく、1枚の羊歯の葉が開き、その次に反時計回りに芽が出て葉が開く、そのため隣り合う葉の一部が根元で重なっているところを表しました。実際の羊歯の特徴を取り入れつつ応用力のある模様を生み出した好例と言えます。なお羊歯模様については、東京国立近代美術館編集・発行の企画展図録『クローズアップ工芸』(2013年)の中で詳しく解説されています。また兵庫陶芸美術館編集・発行の特別展図録『やきものの模様―動植物を中心に―』(2022年)でも、富本の羊歯模様がどのシダ植物をモデルに創案されたのか、サイエンスの視点も併せて考察されています。読み応えのある内容ですので機会があればご一読ください。

 話を戻しましょう。

菱形に収めた羊歯模様は、縦に長くすれば角瓶のような縦長の面にもつけられますし、横に長くして飾箱の面を覆うこともできます。また円周に沿うように変形させれば皿や陶板の周縁部に収められるので、見込みに絵付けした模様に対して額縁のような効果を発揮してくれます【図版2】。菱形の4つの内角を全て直角とすれば正方形となり、このタイプなら面を敷き詰めるように絵付けできるのはもちろんのこと、市松模様のように配置することもできます。特にカキオコシ(赤で絵付けした模様などの上を金銀でなぞって再度焼き付ける)の技法を使った作品では羊歯模様と余白の対比がより鮮明になって、赤地金銀彩の作品とは印象が大きく変わってきます。

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【図版2】出品番号91《色絵金彩染付「竹林月夜」模様大陶板》1958年・文化庁蔵

 さてここで冒頭の話題です。《金銀彩羊歯模様大飾皿》は、展示室では羊歯模様が菱形に見える向きで展示していますが【図版3】、展覧会図録では市松の配置に見えるカットを掲載しています【図版4】。羊歯模様の基本形を菱形と考えれば、菱形に見える方が本来の向きでしょう。ですが正方形にして絵付けした作例もありますから、市松状に配置する意図があったとも考えられます。これがどちらの向きで展示するべきか悩む理由です。

 菱形として飾るのか、市松模様として飾るのか。皆さんならどちらで見えるように飾りますか?

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【図版3】現在第4展示室で展示中の《金銀彩羊歯模様大飾皿》

【図版4】同じく《金銀彩羊歯模様大飾皿》、展覧会図録で掲載したカット

 

飯島礼子(指導学芸員)