奈良盆地のほぼ中央にある、磯城郡三宅町。地名は、古代の「屯(み)倉(やけ)」に由来するという。
 屯倉とは、大和朝廷が直接に支配していた土地のことで、稲作の盛んな穀(こく)倉(そう)地帯であった。三宅町のすぐ東が、田原本町の唐(から)古(こ)・鍵(かぎ)遺(い)跡(せき)。弥(や)生(よい)時代を代表する集落があった。昔、このあたりでは豊かな稲田が一面に広がっていたのであろう。
 さて、そんなのどかな三宅町に伝わるお話。昔、石(いわ)見(み)と今里という二つの村の間に、大きな池が二つあり、池のほとりを細い道が通っていた。
 道は、両側から背の高い竹が天をおおって昼でも薄暗く、風が吹くと、「ザワザワ」と葉(は)擦(ず)れの音がした。
 そんなさびしい道の傍らに、地蔵さんが立っておられた。
 ある夜、若者がひとり、この道を提灯(ちょうちん)を持って歩いていた。静かな道に草(ぞう)履(り)の音だけが聞こえた。
 竹藪の中ほどまで来た時、後ろから微(かす)かな声がした。「おうてくれぇ」。※「おうてくれ」は方言で、「おんぶしてくれ」の意味。
 若者が振り返り、提灯をかざしてみたが、何も見えない。「気のせいかな。狐(きつね)か狸(たぬき)のいたずらか」。再び歩き出すと、また「おうてくれぇ」。若者は気味悪くなり、足早に道を急いだ。
 すると、今度は大きな声で「おうてくれぇ」。怖くなった若者が走り出すと、急に背中が重くなった。
 あの地蔵さんが、背中にのっかっているではないか。あまりの重さに若者は座り込んでしまった。提灯の灯りは消え、あたりは真っ暗。
 すると地蔵さんが、「これからは、日が暮れるまでに家に帰るか」と言った。「はい。南無阿弥陀仏」。「親に心配かけないか」、「はい。南(な)無(む)阿(あ)弥(み)陀(だ)仏(ぶつ)」。若者が必死で答えると、背中がスーッと軽くなった。
 この噂(うわさ)はたちまち村中に広まり、それからは、誰も夜中にこの道を通らなくなったという。それから地蔵さんは、「おうてくれ地蔵さん」と呼ばれるようになったそうだ。
 地蔵さんは、今も石見新池のほとりの地蔵堂で地域の人々の篤い信仰に支えられ、大切に守られている。
おうてくれ地蔵
石見新池のほとりにある地蔵堂。昭和60年に住民の寄付金で完成し、地蔵さんが現在の位置に安置された。地蔵さんは平成23年、古像を模して新造。供花が絶えず、地域の子どもたちの無事と成長をあたたかく見守っている。

地蔵祭(7月23日)
地蔵堂の前にテントが張られ、子どもたちは、僧侶の読経(どきょう)のあと、一人ひとりの頭にお香水(こうずい)を注いでもらう(灌頂(かんじょう)の儀式)。そのあと、子どもたちにはお菓子のお土産が待っている。(写真提供:石見地蔵講)




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