第34号(平成11年度)

平成11年度


奈良県衛生研究所年報


No.34


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b006lis 報文 

1.河川水の着色について       pp37-40

     中山義博・西畑清一・岡田 作・奥田忠男・寺田育子・兎本文昭・市村國俊

 河川水の着色の程度を客観的に評価するために,簡易な手法で着色度を測定し,他の水質項目との関係を調べたところ,着色度とCOD値や紫外部吸光度との間には比較的関連性が認められた.水質の汚濁地点では,懸濁の影響を受けて水質項目との対応があまりよくなかったが,水質が清浄な地点では,着色度とCOD値の対応が良好であった.以上,希釈法で着色度を測定する方法は迅速かつ容易で,河川水の着色状況を数値化することができるため,感覚的に理解しやすく有効であることがわかった.

2.大量注入アトカラム濃縮GC/MSによる有機スズ化合物の微量分析       pp41-45

     大橋正孝・陰地義樹・田中 健・玉置守人

 今回,魚の部位ごとのTBT,TPTの濃度を大量注入アトカラム濃縮GC/MSにより測定した.試料にアジ,サバを使用し,表皮,エラ,肝臓,背身,腹身をそれぞれ約2g取り,液々抽出,固相抽出し,GC/MS試験液とした.
 73℃で25KPaに保った注入口に,GC/MS試験液を100uL注入し,パージラインから溶媒だけを排気した後,280℃まで上昇させて濃縮し,溶質をカラムに導入した.カラムオーブン温度は溶媒排気中77℃で保持後,10℃/minで230℃まで昇温を行った.
 アジ,サバのほとんどの臓器・部位からTBT,TPTが検出され,バラツキが多いもののTBT,TPTとも肝臓に最も多く含まれており,ついで筋肉部であり,背身と腹身とで差はなかった.表皮,エラにも肝臓の1/2から1/3合まれていた.   

3.Nested PCR と RFLP の組み合わせによる Cryptosporidium oocysts の高感度検出と種鑑別法       pp46-48

     北堀吉映・足立 修・中野 守・田口和子・青木喜也

 クリプトスポリジウム症の主な病原体は Cryptosporidium parvum であるが,少数例ながらその近緑種である C.muris あるいは C.baiLey による発症例も報告されている.本報では,これらの oocysts を検出する高感度検出法と種識別法を検討した.Oocysts の検出は small subunit(18S)rRNA 遺伝子を標的とする nested PCR を行い約150bpの遺伝子増幅の有無によって検出を行った.検出感度は1x10-1個 oocysts であった.種識別法は増幅した遺伝子断片を,Hae 3および Ssp 1酵素による切断(RFLP)パターンで,C.parvum および C.muris 種の鑑別が可能であった.以上の結果から,形態学的観察が主であった Cryptosporidium の同定・確認に nested PCR と RFLP の組み合わせによる分子生物学的手法の導入がより高感度かつ効果的であることが明らかとなった. 

b007lis 調査・資料

1.奈良県における環境放射能調査(第8報)       pp49-50  

     玉瀬喜久雄・氏家英司・北田善三

 奈良県における平成11年度(H.11.4.1~H12.3.31)の環境放射能調査結果は,空間放射線量率および降水中の全β放射能については例年とほぼ同程度であり,異常値は認められなかった.また,核種分析調査の結果,土壌,茶および日常食からセシウム137がわずかに検出された.しかし,いずれも過去のデーターや全国の測定結果と比較して大きな差は認められなかった.

2.在来線の鉄道騒音について       pp51-53 

     氏家英司・玉瀬喜久雄・北田善三

 奈良市内を通るJRの2つの路線の周辺で等価騒音レベル(LAeq)を測定したところ,軌道中心から12.5m離れた地点での平均値は,52dB,62dBであり10dBの差が見られた.その原因として列車の連結車両数,車速等の違いが考えられた.距離減衰についは,音源である列車の長さの違いにより異なった減衰パターンを示した.ブロック塀の遮音効果は,列車騒音のピ-クレベルで10dB減衰し,高い周波数ほど減衰量が大きかった.

3.クーリングタワーによる振動事例について       pp54-56

     氏家英司・玉瀬喜久雄・北田善三

 夏期のエアコン稼働時に当所3階ウイルス検査室において,体に感じる振動が発生していた.原因究明のため所内各所の振動レベル測定と周波数分析を行ったところ,屋上に設置しているクーリングタワーが発生源であることが判明した.クーリングタワー修理後,振動レベルは改善された.

4.道路沿道でのベンゼンおよび1,3-ブタジエン濃度について       pp57-61

     植田直隆・阿井敏通・松浦洋文・北田善三

 平成11年4月から12年3月まで毎月1回24時間,容器採取-GC/MS法を用いて大気汚染監視測定4局(橿原局,奈良局,天理局および王寺局)においてベンゼン,1,3-ブタジエン濃度を測定した.平成10年度地方公共団体等における有害大気汚染物質モニタリング調査結果と比較するとベンゼンは4局ともこれらを下回った.一方1,3-ブタジエンは王寺局は全国平均を上回ったが,他の3局は全国平均値と同レベルであった.ベンゼンおよび1,3-ブタジエン濃度の経月変化はともにも夏期に低く,晩秋から冬期に高い傾向がみられた.橿原局周辺ではパフ式を基本として求めた簡易式を用いたベンゼン濃度の計算値は実測値と概ね一致したため,ベンゼンの発生源は自動車排ガスがほとんどと思われるが,天理局周辺では自動車排ガス以外からのベンゼン排出源が予想される.

5.奈良県における大気中の芳香族炭化水素濃度について       pp62-64

     阿井敏通・植田直隆・松浦洋文・北田善三

 県内4地点で芳香族炭化水素(ベンゼン,トルエン,スチレン,エチルベンゼン,キシレン)の調査を行った.その結果,ベンゼンは年平均値が沿道で3.3μg/m3と環境基準値(3μg/m3)を超え,冬季にやや高濃度となる傾向があった.また,ベンゼンとキシレンは沿道で,トルエン,スチレン,エチルベンゼンは工場地域でそれぞれ高濃度となる傾向があった.また,各物質の濃度比を調べることにより,発生源の影響の程度を推定することができた.


6.ある汚濁河川の水質特性       pp65-67

     兎本文昭・中山義博・寺田育子・奥田忠男・岡田 作・西畑清一・市村國俊

 大和川水系の水質汚濁調査の一環として,農地,住宅地,工業団地,畜産,事業所等が混在し,さらに農地へ水を供給するための堰等も点在している一汚濁河川の水質特性を調査した.上流部では家庭からの生活排水の影響が見られた.下流部では畜産排水の影響が著しかったが,行政指導等によって改善される傾向にあった.点在する堰等は水質変動に関係することが考えられた.

7.高速液体クロマトグラフ法による血清中カフェイン,テオブロミン,テオフィリンの迅速定量    pp68-70

     田中 健・岡山明子・瀬口修一・大橋正孝・田原俊一郎・玉置守人

 血清中のカフェイン(Cf),テオブロミン(Tb),テオフィリン(Tf)の迅速な定量法を検討した.前処理は血清500μLに0.1%リン酸を加えて5mLとし,攪拌後,Sep-PaKC18 カートリッジに通した.カートリッジを水10mLで洗浄後,35%メタノールで溶出し全量を5mLとした.その50μLを高速液体クロマトグラフ(HPLC)に注入した.HPLC装置は,島津LC-6A型システムを使用した.測定条件はHPLC用カラム:Inertsil ODS-2,4.6×150mm;カラム温度:40℃;UV光モニター:検出波長 273nm;HPLC移動相(0.05%酢酸-メタノール(8 : 2),1.0mL/minとした.本法の定量下限値はCf,Tb,Tfともに0.1ppmであった.また,添加回収率は2.5,5.0,10ppmの添加でCf,Tb,Tfの回収率はいずれも90%以上と良好であり,簡易な前処理で血清中Cf,Tb,Tfを迅速に測定することができた.本法で14名のボランテイアの血清中Cf,Tb,Tf濃度を測定したところCf,Tb,Tfはそれぞれ0.62ppm,0.30ppm,0.10ppmであった.

8.嗜好品中のカフェイン,テオブロミン,テオフィリンの含有量       pp71-73

     田中 健・岡山明子・瀬口修一・大橋正孝・田原俊一郎・玉置守人

 嗜好品(茶葉13,清涼飲料水22,コーヒー5,ココア5,チョコレート11,計56検体)のカフェイン(Cf),テオブロミン(Tb),テオフィリン(Tf)含有量を調べた.Cf含有量は緑茶で平均2.1%(1.4~3.2),インスタントコーヒー3.1%(1.6~4.1),ココア0.14%(0.03~0.42),チョコレート0.03%(0.01~0.06),清涼飲料水では緑茶0.01%(0.004~0.02),コーヒー飲料0.06%(0.06~0.07)であった.Tbは茶,コーヒではCfより1~2桁その含有量は少く,ココア0.55%(0.08~1.6)及びチョコレート0.20%(0.14~0.33)に多く含まれていた.Tfはチョコレートに微量に含まれていた.茶葉からのCf抽出量が80%とすると,カップ一杯の飲用で,Cfは茶で40mg,インスタントコーヒーで50mg,ドリップコーヒーで120mg,清涼飲料水のコーヒー含有飲料で120mg,Tbはココアで55mg,チョコレート50gで100mgとなる.従って,一日にインスタントコーヒー3杯,茶3杯飲むとCf摂取量は約270mgとなる.この摂取量は健康な成人にとっては適量(200~300mg)である.しかし,血中濃度の半減期の長い妊婦や肝機能障害者が一日に幾度も摂取すると,血中濃度が薬物濃度に達することがあるので気を付ける必要がある.

9.散発性に発生した小児胃腸炎患者からの原因ウイルスの検索       pp74-76

     足立 修・中野 守・北堀吉映・田口和子・青木喜也

 最近,散発性にみられる小児急性胃腸炎の原因ウイルスにカリシウイルスが広く関与していることが明らかになった.今回,1998年4月から99年3月までの1年間に感染性胃腸炎あるいは乳児嘔吐下痢症と診断された小児患者便195例を対象に従来の起因ウイルスを含む腸管系病原ウイルスの再検討を行った.ウイルス検出結果は,ロタウイルス21株(38.2%),カリシウイルス18株(32.7%),アデノウイルス10株(18.1%)およびエンテロウイルス6株(10.9%)であった.原因ウイルスの主体はロタウイルスおよびカリシウイルスで,両者には好発期,発症年齢,発熱および発症状況に違いがみられた.発生時期は,ロタウイルスは冬から春先に限局,カリシウイルスは12月をピークとする冬期型であるが4月,7月にも少数例ながら検出し広範囲にわたっていた.年齢分布は両者とも0から3歳児までの患者からの検出が最も多く占めたが,カリシウイルスでは7歳児以上からの検出例も5例認められた.嘔吐および下痢症状は両者とも高頻度に伴い差異は認められなかったが,発熱を伴う症例はロタウイルス13例(62%),カリシウイルス6例(35%)とロタウイルスに高率に観察された.発症状況では,感染経路を推測する上で重要と考えられる家族内発症と回答したものがカリシウイルスで4例(23%)と多いことが判明した.

10.奈良県のインフルエンザ抗体保有状況および1999/2000シーズンの流行       pp77-79 

     田口和子・中野 守・北堀吉映・足立 修・青木喜也

 インフルエンザ流行はその程度によって健康被害と社会活動への影響が大きく,社会的に注目される疾患である.今回,本県の各年齢層におけるインフルエンザ抗体保有状況を検討するとともに1999/2000シーズンの流行状況について考察した.流行の特徴は,A/ソ連型(H1N1)とA/香港型(H3N2)とがほぼ同時期に流行した珍しい流行様式であり,ウイルス分離数からA/ソ連型ウイルスを主流とするA/香港型ウイルスとによる混合流行であった.また,A/ソ連型ウイルスが多く分離された時期と学級閉鎖数および患者数の増加した時期が一致して観察されている.このことは,流行前の7月に採取された抗体保有状況調査から,学童層でA/ソ連型であるA/Beijing/262/95 (H1N1)に対する抗体保有率が低く,A/香港型であるA/Sydney/5/97(H3N2)に対する抗体保有率が高かった結果からも流行状況が説明できると考えられる.

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