玉子麻地銀杏冊子散らし文様染・繍帷子

解説

 

 帷子とは麻布で仕立てられた裏地のないきもののことで、夏季に着用した。本領のように腰の高さまでに文様を配するのは、江戸時代中期の小袖に共通する特徴である。裾から立ち上がる三本の銀杏と、その間に散らされる七帖の冊子が、友禅染であらわされる。糸目糊で取った輪郭、色挿しのぼかしの細やかさに技術の確かさが感じられる。また所々に添えられた刺繍の色糸・金糸がほどよいアクセントとなっている。

 冊子には「松に鶴」「七宝に梅花」「雪中の筍掘り」などの文様が丁寧に施されている。意匠には松・竹・梅が含まれていて、さりげなく吉祥の意味をも備えている。ちなみに「雪中の筍掘り」は中国の説話・二十四孝のうちの一話に基づく図。三国時代の人物・孟宗が、筍を食べたいという病床の母のために、雪の竹林で筍を探す場面を描いている。

なお、銀杏には防虫効果があるため、虫除けのために冊子に銀杏をはさむことがあった。そのため銀杏に冊子の組み合わせは虫干しの意味を持つ。虫干し(土用干し)は旧暦六月、立秋前の夏の土用に行われた。蔵書のみならず、寺社の宝物、武家の武具甲冑、書画骨董、衣類にいたるまで、風に当てて湿気をはらったという。 


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