奈良新聞掲載記事集

平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

薬用樹キハダについて

  キハダという樹木をご存じですか。日本をはじめ、中国や朝鮮半島にも広く自生するミカン科の落葉高木です。 葉を軽く揉むと柑橘系の芳香がします。またアゲハチョウが好んで飛来します。このキハダの樹皮を、外側のコルク層を除いて剥ぎ取り、乾燥させたものが生薬「黄柏(オウバク)」となります。内皮が鮮やかな黄色であることが名前の由来です。「黄柏」は苦みがたいへん強く、噛むと粘り気があります。健胃整腸剤、止瀉(ししゃ)薬(下痢止め)として広く用いられており、本県吉野地方が発祥である陀羅尼助(だらにすけ)をはじめ、長野県の御岳百草丸(おんたけひゃくそうがん)などの国産伝統薬の主成分のひとつです。日頃、お世話になっている方も多いのではないでしょうか。1300年ほど前に、大峰山で修行をしていた役行者(えんのぎょうじゃ)が、疫病の流行によって困っていた民衆を救うため、山中にあるキハダの木の皮を煎じて人々に飲ませたことが起源とも伝わっています。のちに江戸時代に入って腹痛によく効くと広く普及しました。キハダは奈良県でも6haあまりが栽培されています(H27)。このキハダの収穫には、植えてから少なくとも15年から20年という長い年月を要します。収量の確保や作業のしやすさを考えると、胸の高さの位置で、幹の直径が20cm程度の太さに成長していることが必要であるからです。キハダを収穫のために切り倒し、皮を剥ぎ取る作業はちょうどこれからの時期である7月から8月、梅雨明け後の夏の土用の頃に行います。この時期は木が多くの水分を含み、外皮と内皮が最も分離しやすいからです。栽培期間が長いうえに、皮を剥ぐ作業にはたいへんな手間を要します。しかもこれらの作業は真夏に時期が限定されることから短期間の重労働となります。薬として服用されるときには、歳月と労力を少し思い起こしていただくとよいかもしれません。

 

kihada

        キハダ外皮の剥ぎ取りのようす

 

【豆知識】

 生薬「黄柏(オウバク)」は胃腸薬だけでなく、湿布薬として打ち身や捻挫の薬としても用いられています。またキハダ自体も生薬として利用されるだけでなく、さまざまな用途に用いられています。 樹皮の鮮やかな黄色は古くから染料として利用されてきました。とくに防虫性に富むため、飛鳥時代から文書の保存や貴重品を包む布の染色に使われたようです。草木染めを行うときれいに仕上がります。その他の部位も利用されています。心材は家具をはじめ、寄せ木細工など工芸品に用いられます。最近はお盆やコースターなどの商品をよく見かけます。果実は球形で緑色をしており、熟すと黒くなります。苗木を育てる際はこれを種子として播きます。果実は古くはアイヌ民族が香辛料として用いたとされています。現在、果実を使用した飴が県内の食品メーカーから市販されています。

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奈良新聞で第1日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
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