活かす 歴史を活かす地域の取組

歴史を活かす地域の取組

矢部の綱掛 田原本町矢部

毎年5月5日に、矢部の集落で行われている風習です。地域の人々の手によって作られた綱が集落内を練り歩いた後、集落の南端にある2本の木の間に掛けられて、豊作と邪悪が入らぬことを祈願します。次の年には、また新しい綱が作られ、前年のものと掛け替えられます。当屋(とや)制度や伝承方法など、地域の人々の工夫と努力によって、今日まで受け継がれています。

伝統ある風習を受け継いでいくために、さまざまな工夫を行っています。 伝統ある風習を受け継いでいくために、さまざまな工夫を行っています。

西森 利幸氏 に聞く
2018年1月
農耕儀礼であることを示す
鋤・鍬のミニチュアと牛の版画

降雨と豊作を祈願するための風習

矢部の綱掛は、江戸時代から行われていたという見方もありますが、正確なところは分かっていません。もともと矢部は水の入りが悪く、田植えの時期も他と比べて遅かったといいます。そこで、農作のための水を確保したいという切実な願いから、このような風習が生まれました。現在の矢部では農業を営んでいる人は少ないのですが、古くからの風習を絶やしてはいけないという思いが強く、今でも守り伝えられています。

杵築神社での綱作り

当屋を中心に運営

矢部の集落は10の隣組に分けられており(1組は約10軒で構成)、各組が1年ごとに当番となり、組の中では交代で当屋(行事の世話役)を務めます。昔は、綱掛に参加できるのは一部の家に限られていたようですが、現在では平等に当屋の順番が回ってきます。当屋は、餅苗を育てる、綱を作る、綱を持って練り歩くなど、綱掛の一切を取り仕切ります。そして、準備から当日の運営まで、組で一丸となってあたります。そのことが組内の絆を一層深めるといいます。

前日の準備の様子

見ていただきたいポイント

矢部の綱掛は、平成27年に田原本町の無形民俗文化財に指定されました。町の広報誌で採り上げていただいたこともあり、最近では集落外からの見学者も増えています。当日(5月5日)は、当屋の人々を中心に綱を持って集落を練り歩き、途中で慶事のあった人を綱で巻いたりした後で綱を掛けます。なお、暗黙の了解として、この行事は正午までに終わらせることになっています。この当日の様子は報道などで目にされた方も多いと思いますが、前日(5月4日)の準備の様子も、ぜひ見ていただきたいですね。当屋を中心に地域の人々が協力し合って、綱を作ったり、各家に配るための牛の版画やミニチュアの農具を作成しています。これらの作業は矢部公民館で行っていますので、どなたでも見ていただくことができます。

綱掛に参加する子ども達

矢部の綱掛を伝承していくための工夫

近年、核家族化が進んだため、当屋の順番が回ってきても、具体的なやり方を親や祖父母などから教わることができないケースが増えています。そのような場合に備えて、最近では運営の手順を写真に撮って残したり、申し送り書を作成して次年度の当屋に渡したりしています。
また、次年度の当屋も前年度の当屋の運営方法を見学して、自らの順番に備えています。そして、次世代を担う子ども達を広く受け入れています。例えば、子ども達は組に関係なく綱を持つことができますし、帰省した子ども達にも参加してもらいやすいように、自治会で法被等を準備しています。このような工夫を通じて、伝統ある風習が途絶えることなく続いていくように願っています。