奈良の妖怪伝
ジャンジャン火とは、どんな妖怪ですか?
その名のとおり、ジャンジャンと音を立てて出現する火の玉です。火の玉伝説は全国各地で確認できますが、ジャンジャンという音を立てる火の玉は珍しく、奈良県以外ではあまり見られません。
では、このジャンジャン火は、どんな悪さをするのか? この点については、奈良県内でも地域によって様々な言い伝えが残っているようです。「見ると死ぬ」「見ると2、3日熱にうなされる」「とり憑かれて黒焦げになる」などの恐ろしいものが多いのですが、「別に悪さをするわけではない」というものもあります。「火」といえば、エネルギーをもたらすといったプラスのイメージもありますが、妖怪として語られる火にはマイナスの側面も少なからずあるといえるのでしょうね。
どんなところに出没するのですか?
確認し得る限りでは奈良県北部に話が集中しているという点が挙げられます。火の玉伝説は県南部(吉野方面など)にも残されていますが、ジャンジャンという音は立てないようです。以下の3か所の話が有名ですね。
- 奈良市
- 高橋堤(法華寺町)のあたりに、雨の降る夜には、決まったようにジャンジャン火が出たそうです。青い火の玉であって、長い尾をひいており、よく見るとその火の中に、かなり年配の男の顔がうつっていました。昔、奈良時代に、何か恨みをのんで死んだ公家の怨霊だといいます。このジャンジャン火を見たために、熱を出して死んでしまった人もいたと伝えられています(『大和の伝説』高田十郎編 参照)。
- 天理市
- 近鉄天理駅の西にある辻に、首なし地蔵が祀られています(※)。その昔、ジャンジャン火に追われた浪人が刀で応戦したところ、はずみで地蔵の首を切り落としてしまいました。そして、浪人もジャンジャン火にとり憑かれ、黒焦げになって死にました。首なし地蔵には、このような言い伝えが残っています。(※現在では頭はついており、頭と体の間に割れ目があります。)
- 奈良市
- 打合橋(奈良市)では、毎年6月7日に東西から1つずつ、合わせて2つの火が飛んできて、ジャンジャンと音を立てて橋の上で舞うといいます。豊臣時代、若い武士と農家の娘が打合橋で逢い引きをしていたところ、これが明るみになり、武士は斬首、娘は自害しました。この2人の霊が火の玉となって現れたものだといわれています。
そもそも火の玉というのは、無念の死や非業の死を遂げた者の霊が火となったもの、という解釈がたびたびなされますが、ジャンジャン火もその類なのではないかと思われます。「恨みをのんで死んだ公家」「黒焦げになって死んだ浪人」「斬首・自害に追い込まれた2人」というように、無念の死・非業の死を遂げ、この世に未練のある者が火の玉となって現れていますし、また、奈良市の例では橋にジャンジャン火が出現しますが、橋というのは現世と来世の境であるとされることが多いことからも、この世に未練のある者が現れると考えるのが妥当でしょうか。「ジャンジャン火が出現する所には、近年まで土葬の風習が残っており、人体のリンが発光する」と言われたりもしますが、厳密に証明することは難しいと思われます。
このように、少し恐いジャンジャン火ですが、出没地を訪れてみるのも面白いかもしれません。その際には、ジャンジャン火に遭遇したときの対処方法を考えておくことをお忘れなく。