髙島野十郎展 髙島作品の魅力(2021年4月30日)

 特別展「生誕130年記念 髙島野十郎展」開催中です。未曾有の状況の中での開催となり、ご観覧いただくのも簡単ではなくなってしまいました。この展覧会の企画自体は3年程前に立ち上がっていましたので、当時は関西で初の大規模な回顧展で髙島野十郎を紹介できる機会に恵まれたことを大変嬉しく思っておりました。
 野十郎の作品の中では、「蝋燭」が群を抜いてよく知られていますが、数多く描かれたのは風景画と、静物画です。画面内の水平・垂直を強く意識した、安定感のある構図が特徴的な静物画も魅力的ですが、風景画はより野十郎の個性が際立っています。野十郎が描くのは、ごくありふれた野原や草むらの道、鬱蒼と木々の茂る様などの、決してドラマチックとは言えない情景を丹念に描いています。現実の風景としては平凡なものですが、作品はその風景がすみずみまで捉えられ、その場の温度や湿度、空気の流れといった目に見えないものまでも画面の中に描き出そうという、執念すら感じる描きぶりをみせています。
 野十郎の風景画には、画面内のいかなる細部であっても等しく視線が注がれ、描ききられています。自身が見つめたものを丹念に咀嚼して、時間を描き出したであろう作品を見ているうちに、まるで現実の風景を眺めているのと同じ感覚で作品を観ている様な気分にさえなることがあるほどです。
 髙島野十郎は確かに優れた「写実」の画家ですが、作家の写し出そうとした「実」は、一般的なものの見方よりも濃密に、対象の「実」の姿を捉えています。それが野十郎の作品の大きな個性でもあり、風景画は特にその魅力を味わうことができるでしょう。是非お気を付けてご来館いただきながら、展示室で実物をご覧になって頂いて、お楽しみいただければと思います。


深谷 聡 (展覧会担当学芸員)