現代美術風に「無題」(Untitled) としましょう [2](2021年5月4日)

ちょっとだけ前回の続きから始めます。

 奈良県にお住まいの方は近鉄電車で大阪難波駅まで行かれる方も多いと思いますが、南海難波駅周辺はいかがでしょう。かつて南海難波駅の目の前に、プロ野球・南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)の本拠地、大阪球場(大阪スタヂアム)があったことをご存じの方は、どのくらいいらっしゃるでしょうか。ホークスが九州へ去った後、今は、なんばパークスという複合商業施設になっています。ところが、もともと大阪球場跡地利用の最初の案は、大阪府が設置する現代美術館を中核とした複合文化施設「現代芸術文化センター(仮称)」を含む大規模再開発だったのです。私はその構想の初期段階に従事していたわけですが、大阪府の財政悪化とともに夢と消え去りました。もし美術館が実現していたら難波駅前はどんな風景になっていただろう…と、今でも時々思います。

 さて、出来ずじまいだった美術館の話はこのくらいにして、今回は先日オープンした美術館をひとつ紹介しようと思います(この人また奈良と関係ない話をしてるよ、と思われるでしょうが…)。

 北関東の群馬県は、草津(滋賀の草津じゃありませんよ)をはじめ名だたる温泉に恵まれたところです。そのひとつ伊香保温泉の近く、榛名山のふもとに4月24日、「 原美術館ARC外部サイトへのリンク 」という私立の美術館がオープンしました。緑豊かな広大な敷地に磯崎新が設計した、建物自体が作品と言えるユニークな美術館です。ただ、オープンしたと言っても新築ではありません。ここはもともと1988年に「ハラ ミュージアム アーク」として作られたもののリニューアルで、東京都品川区にあった「原美術館」(1979年12月~2021年1月)を継承するために改修・改称したのです。
 渡辺仁(代表作に東京国立博物館の現・本館)が1930年代に設計した洋風邸宅を再生した原美術館は、創立当時の日本では希少だった現代美術館として好評を博しました。詳細は 公式ウェブサイト(アーカイブ)のリンク外部サイトへのリンク を貼っておきますので、ご覧ください。施設の老朽化などの事情で今年1月にその歴史を閉じましたが、もともと別館として運営していたハラ ミュージアム アークが、名前も改めてその後を引き継ぐことになりました。
 私は、前回に続き「実を言いますと」なのですが、1993年9月から2019年3月まで原美術館に勤務しておりました。原美術館の閉鎖が決まったのを機に、ほな関西に帰りますわ、と希望退職を選んで奈良へ来た、というわけです。偶然にも奈良県美が学芸課長を公募していたので、副館長から降格みたいな感じになるけどまあええわ、と乗っかった次第です。

 私は2001年頃から10年余り、ハラ ミュージアム アークのほうの副館長も非常勤で兼務していまして、設立20周年にあたる2008年に大規模な増築を行い、面積が約二倍になりました。その結果、もともと原美術館の別館ということで現代アート専門館だったところへ、やはり磯崎さんの設計で和風の展示室を作り、古美術コレクションの展示も行うようになりました。意外にもこの古美術コレクションには、関西と縁がある優品が含まれています(やっと話が関西につながる…)。
 ひとつは狩野派一門の絵師たちによる「三井寺旧日光院客殿障壁画」47件です。そう、滋賀県の三井寺です。もうひとつは円山応挙の「淀川両岸図巻」で、京都の伏見近辺から大阪の天満あたりまで淀川を船で下る行程を、全長およそ17メートルという長大な画巻に描いた応挙畢生の大作です。

 原美術館ARCに衣替えしてからも、今まで通り現代美術と古美術両方の展示は引き続き行っています(東京にあった常設展示も群馬に引っ越したり)。あいにく、北関東は関西から遠いということは否めません。東京経由で東海道新幹線と上越または北陸新幹線を乗り継ぐことになります。ただ、高崎駅(群馬県)は上越・北陸新幹線の分岐・合流駅なので、関西からはあえて遠回りに行く北陸経由の方法もあります。北陸には金沢21世紀美術館や富山県美術館といった見ごたえのある美術館も複数ありますので、ゆっくり時間をかけて現代美術館巡りというのも楽しいのではないでしょうか。とは言いましても、現在のコロナ禍では旅もしづらいですけれど、状況が良くなったころに試してみるのもいいと思います。

 

安田篤生 (学芸課長)

 

↓ 原美術館のウェブサイト画面から

Hara_Museum_Arc