髙島野十郎の展覧会(2021年5月11日)

 特別展「生誕130年記念 髙島野十郎展」、臨時休館中となっており、お問い合わせも沢山いただいております。折角の展覧会をご覧になっていただけないことは大変残念に思っております。担当としても無念なことですが、奈良県立美術館の各公式SNSや、youtube動画配信などで情報をお伝えしていきたいと思っております。

 今回のコラムでは髙島野十郎と展覧会についてのお話を。髙島野十郎という画家は、すでにこのコラムでも少し触れましたが、生前はほとんど世間に知られていませんでした。実家や、学生時代からの知古や恩師といった人々、その家族や知人といった人の輪によって自分の画業に邁進することができた野十郎ですが、大学卒業後の短い期間を除いて特定のグループに属せず、本人が手紙で「世の画壇と全く無縁になる事が小生の研究と精進です」と書くぐらいですので、画壇や他の作家に積極的に関わることも避け、先に挙げた友人、知人の輪を超えて認知される機会はなかったようです。
 そんな野十郎が“発見”されたのが1980年、本展にも多数の作品をご出品いただいている福岡県立美術館の前身、福岡県文化会館で開催された「近代洋画と福岡県」という展覧会でした。そこに出品されたのが本展出品作でもある『すいれんの池』です。この作品をきっかけに、福岡県立美術館での調査と作品の収集がはじまって、1986年に福岡県立美術館で初の回顧展が開催され、本展へと繋がっていきます。野十郎の没後から5年のことでした。

 野十郎の全国規模の巡回展は本展が3度目になります。その点では先の“発見”から40年に満たない新しい作家です。関西での本格的な紹介も初めてということで、当館での展示についてはなるべく奇をてらわず、ストレートに作品と作家の魅力を感じて頂けるような展示を心がけました。最初の導入のところだけ、野十郎本人の人柄を感じて頂きたかったのと、奈良とのご縁をご紹介する意図を込めて薬師寺の作品とスケッチ、そして画材をピックアップしていますが、その後の構成は展示が作品にとって余計な演出にならないような展示になっているように設計しています。学芸員としては今後、野十郎の認知が深まっていくにつれて、作家にふさわしい展示も変わっていく予感がしていますが、野十郎のような静かでストイックな作品は、少しでも外連味のある展示をしてしまうと、かえって作品が奥に引っ込んでいってしまう様なことにもなりますので、こちらもストイックな展示で取り組まないと作品の魅力をお伝えできないことになりかねず、その点、展示空間として楽しい展示室と、飾りっ気がなく地味に感じてしまうところのさじ加減の難しいところです。
 今回のような巡回展では、同じ展示内容でも会場ごとにまったく違う表情があり、“光ってくる”作品も違ってきたりしますので、その点も展覧会の魅力、だったのです。そして、奈良会場は第1会場の久留米市美術館と同様に、巡回展最大規模の点数を展示していましたので、なおのこと現状は残念でなりません。せめて、次会場の瀬戸内市立美術館(6月5日~7月19日で開催予定)以降の会場(柏市民ギャラリー・高崎市美術館)では十分な期間ご覧になって頂けることを願うばかりです。

 本展はこのコラム執筆現在はご覧になっていただく事がかないませんが、今後への期待をこめて、髙島野十郎という作家の展覧会についてのお話をさせていただきました。

 

深谷 聡 (展覧会担当学芸員)