しだいに寒さが緩み、春が待ち遠しくなってきました。こんな時期に春の足音に耳を澄ませるのは昔も今も変わりません。今日はお水取りが春の訪れを告げるものとして有名ですが、『万葉集』の歌々では自然の風物にそれを感じています。 たとえば右の歌は、佐保川のほとりに芽吹く青柳に春を敏感に感じ取っています。柳は三月から四月にかけて綿毛状のふわふわした可愛い芽が出ます。そのぷっくりとふくらんだ萌芽(ほうが)は、昔から春の訪れを告げるものとして馴染み深いものでした。 さらに柳は生命力の旺盛な植物で、枝を湿地にさし立てるだけで根をおろすことがあるほどです。そのため呪力をもつ神木と考えられていました。『万葉集』には柳を髪飾りにして長寿を祝う歌(巻十九の四二八九)や、田植えのときに柳の枝をさし立てるようすを詠んだ歌(巻十五の三六〇三)がみられます。 一般的に柳は、枝葉の垂れるものに「柳」(シダレヤナギ)、垂れずに立つものに「楊」(カハヤナギ・ネコヤナギ)の文字があてられます。ただし『万葉集』では両者の違いが明確ではありません。また、柳は中国からの渡来種なので梅花とともに詠まれることが多く、しなやかな春の青柳と香(かぐわ)しい梅花との取り合わせが好まれたようです。 柳の芽吹きは春の訪れを告げています。ぜひ小さな春を見つけてください。 (本文 万葉文化館 小倉 久美子)
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