はじめての万葉集

 



 毎年悩まされる檜花粉、あるいは高級感のある檜風呂など、現代社会における、檜のイメージの善し悪しはさまざまです。
 檜のイメージはどうであれ、伝統的に木造建築を主としてきた日本人にとって、自(おの)ずと身近な存在になっていることは間違いないでしょう。
 このことは、古代まで遡ります。たとえば、藤原宮の造営には、たくさんの檜材を用いていることが万葉集に詠まれています。神社でよくみかける檜皮葺(ひわだぶき)も、古くからあります。さらに、記録・伝達のために使用された木簡も、多くは檜を加工したものです。
 ただ、こうした古代社会の実態がある一方で、ひとたび万葉歌の世界に目を向けると、やや状況が異なります。
 檜が詠まれた歌は九首しかなく、うち六首が当時の巻向(まきむく)・三輪・泊瀬(はつせ)に広がっていたという檜原を詠んだものです。万葉歌での檜の詠まれ方には、どうも片寄りがあるようです。
 右の歌は、そのうちの一首です。歌の作者は、三輪山の檜原を見て、視界には入らない始瀬(泊瀬)まで続く檜原のようすを連想しています。
 このタイプの連想は、身近なものや過去の記憶によるところが大きく、この場合、泊瀬での思い出が、檜原を通して甦ったのかもしれません。歌の作者に、いったいどんな思い出だったのか、とぜひ聞いてみたいものです。
(本文 万葉文化館 竹本 晃)


 今回の歌が詠まれた桜井市に、出雲という地名があります。島根県の出雲から、この辺りに多くの職人が移り住んだそうです。その名残が、今も地名や郷土人形の「出雲人形」に残っています。また、この地の十二柱(じゅうにはしら)神社は、垂仁(すいにん)天皇の時代に、当麻蹴速(たいまのけはや)と相撲を取り、勝者となった野見宿彌(のみのすくね)の五輪塔が移されるなど、相撲と深い関係があります。境内入ってすぐの狛犬にも、相撲に関わる珍しい工夫が成されているので、ぜひ訪れてみてください。
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