現代美術風に「無題」(Untitled) としましょう [3](2021年5月8日)

 第1回で来年2月にオープンする大阪中之島美術館に触れましたが、関西には他にも来月(6月27日)オープンする予定の美術館があります。大津市の「 滋賀県立美術館外部サイトへのリンク 」です。とはいえ、大阪中之島美術館のような「まっさら」の新築ではなく、1984年に設立された「滋賀県立近代美術館」を部分改修し、同じ場所でリニューアルして名前を改めたものです。同館のリニューアルについては、計画や設計の変更を含めて紆余曲折がいろいろ報道されましたので、ご存じの方もおられるでしょう。
 懲りずにまたもや奈良と関係のない話になりますが、実は(これもしつこいですね!)、私が1987年に新卒で就職したのが、この滋賀県立近代美術館だったのです。
 就職したときは美術館も創立3年目で、当然ながらまだ「ピッカピカ」でした。在職中、ときどき「滋賀の美術館だから琵琶湖が見えると思ったのに、行ってみたら残念…」という声が聞かれました。その通り、あいにくなことに琵琶湖畔からはだいぶ離れています。宍道湖畔にある島根県立美術館とは大違い、確かにちょっと悲しい。しかし、瀬田丘陵に作った「文化ゾーン」という広々とした公園の中にあって、企画展示室の中ほどにある休憩コーナーからは大きな池のある庭園を眺めて一休みすることができ、なかなか良いところです。

 ↓同館のウェブサイトから

 shiga

 滋賀県立近代美術館は当初「日本画・郷土美術」と「現代美術」を2大テーマにして出発しました(常設展示室もそのような区分で2室にしていました)。1980~90年代は全国に公立美術館が相次いで作られて「美術館建設ラッシュ」とも言われた時期でした。その中でも滋賀県立近代美術館は、地方都市の公立美術館としてはいち早く「現代美術」に力を入れた点に特色がありました。今でこそ美術館で現代美術の展示が行われることも普通になり、瀬戸内国際芸術祭のような現代美術の大型イベントが多くの来場者を集めるようになりましたが、当時はそういう時代でもなく現代美術を重視することについてネガティブな声もありました(県議会で問題視されたこともあります)。ところが面白いことに、滋賀県立近代美術館が開催した企画展の入場者数ランキング上位を見ると現代美術展があったりするのです。
 私が就職した1987年の目玉となった企画展は、アメリカの現代アーティスト、ジョナサン・ボロフスキー(Jonathan Borofsky 1942~)の個展でした。これは東京都美術館(上野公園)との2館開催でしたが、たいへん評判になりました。このときの滋賀会場の入場者数はずいぶん長い間同館の最高記録になったほどです。ボロフスキーは展示空間全体を自分の作品化する「インスタレーション」という制作スタイルをとり、東京会場でも滋賀会場でもかなりの日数滞在して、展示を作り上げました。滋賀会場では、日本のイメージから竹を使うことを思いつき、竹を大量に使った新作を現地制作でやりたいと言ったため、私のすぐ上の先輩学芸員が材料の竹を調達するのに汗をかいていたことを覚えています。

borofski_kassel 

 ボロフスキーの彫刻作品は東京オペラシティや名古屋市美術館、霧島アートの森などに常設で設置されていますが、この写真はドイツのカッセル(Kassel)という街の駅前広場に設置されたパブリックアート(公共彫刻)です。カッセルは1950年代から5年に一度「ドクメンタ(documenta)」という大規模な国際現代美術展を開くことで知られています。この作品は「ドクメンタ9」(1992)の時に設置された高さ25メートルにもなる作品で、題名は「Man Walking to the Sky(空へ歩く人)」。現代美術の街カッセルのシンボルにもなっており、想像力を刺激する愛すべき作品だと言えます。私は過去3回「ドクメンタ」を見に行きまして、これは確か2012年に撮ったものです。

 

安田篤生 (学芸課長)