第7回 美術館の裏側

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 イレギュラーな事態に振り回された「高島野十郎展」もともかく無事に閉幕し、26日(土)から始まる「ウィリアム・モリス 原風景でたどるデザインの軌跡」(チラシ pdf 1853KB) 展まで、当館は休館に入ります。しかしながら、美術館の学芸課にとって、この休館の期間がたいへん多忙なのです。

 毎年、奈良国立博物館で開催される「正倉院展」は、展覧会と銘打ちながら、実は宝物の曝涼(ばくりょう、虫干し)と保存上の点検、そして資料整理が主体で、展覧会は二義的な意味合いに位置づけられています。『正倉院文書』によると、古いところでは787年に曝涼が実施された記録があり、それ以降も連綿と行われてきたたいへん由緒ある文化財保存事業です。ですから、展覧会期の前後に、宮内庁正倉院事務所と奈良博の学芸部による驚くほど長い点検と調査の期間が設けられていることはあまり知られていません。


 「正倉院展」ほどではありませんが、当館でもすべての展示品に異常がないか慎重にチェックをします。問題がなければ、学芸員立ち会いのもとに、美術品専門の運送業者による梱包作業が始まります。そして当館が最終会場である展覧会は、所蔵者への作品返却という大仕事が待っています。担当学芸員は、運送会社の大きなトラックに乗って各地の返却先まで同行し、異常がないかの確認を行います。しかし今回の「野十郎展」は、次の巡回会場である瀬戸内市立美術館へ送り出しますので、手間はひとつ省けます。
 それと併行して、次回展の準備も着々と進行しています。テーマごとに会場の展示計画を練って、観客の動線や照明計画などを立てていきます。図録やポスターの準備も進めています。
 本展は、近代デザインの父といわれるウィリアム・モリスの生涯を追いながら、同時代の交友関係の貴重な記録をはじめ、デザインや書籍、工芸作品約80点を展示いたします。様々な材質や形式の展示品が多く、展示方法にも知恵を絞っています。またモリス作品が生み出された美しい環境を、写真家・織作峰子さんの情感溢れる写真でご覧いただきます。
 「ウィリアム・モリス」の生活デザインは、19世紀のイギリスで世界に先駈けて始まった近代的工業生産によって、伝統的な職人の手仕事が疎外されることへの反省を促す目的で生み出されたものです。その知的で爽やかな意匠と色彩は、21世紀になっても色あせることなく商品化され、私たちの生活を彩ってくれています。
 今回は、いつも以上にミュージアムショップの品揃えが豊富です。展覧会場をご覧いただくだけでなく、ぜひ魅力的なグッズ類をお買い上げの上、ふだんの生活でもお楽しみいただきたいと思います。

2021年6月1日
館長 籔内佐斗司