第22回 森川杜園展に寄せて 其の五『連携展示』

 今回は、『森川杜園展』順路の最後の部屋にある「連携展示室」についてご紹介させて頂きます。当館では、展覧会のたびに、県下で展開されるさまざまな事業や施設などを紹介する「連携展示」のコーナーを設けています。今回は、「なら工藝館」のご協力を頂き、奈良の伝統工芸を紹介しています。
 仏教伝来以来、高度な仏教藝術を生み出してきた奈良には、さまざまな美術工芸が伝えられてきました。飛鳥、天平時代は言うに及ばず、平安時代、鎌倉時代、そして中世、近世を通じ、絶えることなく承け嗣がれてきた伝統工芸品や物産を紹介し、人材育成に努めているのが「なら工藝館」です。
 元禄から宝永年間まで続いた大仏再建の開眼法要と落慶法要では、莫大な数の参詣者が押し寄せ、そのひとたちのための土産物がたくさん売り出されました。いまの奈良土産や物産の多くがそのときに開発され、全国に広まったものといわれています。本展でも、そうした流れを汲む奈良漆器、赤肌焼き、奈良晒、奈良団扇、墨、筆のほかに、奈良一刀彫りなどを一堂に紹介し、またミュージアムショップでは即売も行っています。これらの工芸品のルーツをたどれば、天平時代以来営々と続いた仏像や仏画の制作や、杜園も携わった明治初めの文化財修理や模造に行き当たります。
 文化の伝承とは、伝来したものをそのまま承け嗣ぐのではなく、かならずその時代の価値観が盛り込まれて再生され伝えられます。それは、ことの是非はともかく、すべての藝術表現と同じく、文化財の保護や修復も時代の価値観が反映される「時代の子」であることから逃れられないからです。
 今回の連携展示室では、私の東京藝術大学大学院文化財保存学講座での教え子のひとりである吉水快聞くんの作品も紹介しています。奈良県で生まれた彼は、修士課程、博士課程で、東大寺俊乗堂の快慶作・阿弥陀如来立像を研究し、その模刻像を2011年に完成させました。この像は、快慶の見事な彫技だけでなく、極めて精緻な截金文様で仕上げられていることで知られています。彼は、大学卒業後は奈良市内に工房を構え、快慶の技術を現代に活かしながら創作活動に励み、銀座の美術界でも気鋭の彫刻家として高い人気を得ています。彼がこの後、どのように育ってくれるのかを大いに楽しみにしています。
 この企画展示が機縁になって、奈良の伝統工芸の作家のみなさんと吉水くんが出逢い、相互に刺激を与え合って、明治時代に杜園が牽引したように、これからの奈良の美術工芸を革新し活発にしてもらえることを願っています。
 今回の「森川杜園展」は、最後の連携展示室までゆっくりとご観覧下さい。
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吉水快聞「東大寺俊乗堂 木造阿弥陀如来立像」模刻(2011)
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吉水快聞作『揺籠』2018

2021年10月5日
館長 籔内佐斗司