富本憲吉と奈良の工芸─奈良県美の工芸コレクション(2022年2月11日)

 先日から始まった企画展『奈良県立美術館所蔵名品展 奈良県美から始める展覧会遊覧』では「奈良県ゆかりの作家と作品-工芸編」というセクションを設けていますので、それに関するお話をしましょう。
 間もなく終わってしまいますが、東京国立近代美術館の『柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年』をご覧になった方もおられると思います。日本民藝館の創設者でもある柳宗悦(1989-1961)が中心となり、手仕事の日用品の中に「用の美」を見出してその価値を称揚した「民藝運動」を再検証する展覧会で、好評を博しています。この展覧会の第1章《「民藝」前夜―あつめる、つなぐ 1910年代~1920年代初頭》の中に「富本とリーチ」というセクションがあり、奈良県出身の人間国宝、富本憲吉(1986-1963)とその親友であったイギリス人の陶芸家・美術家バーナード・リーチ(1987-1979)に光が当てられています。
 富本憲吉について、最近の当館では、2019年夏の企画展『富本憲吉入門―彼はなぜ日本近代陶芸の巨匠なのか』で詳しく取り上げたほか、昨年夏の特別展『ウィリアム・モリス 原風景でたどるデザインの軌跡』にあわせて一部屋で特設展示コーナーも設けましたので、ご覧くださった方も多いことと思います。富本はウィリアム・モリスの芸術思想に共鳴して、明治末期、20歳代にロンドンへ私費留学し、西洋近代デザインの潮流にも触れています。大正末期には柳宗悦・濱田庄司・河井寛次郎と連名で「日本民藝美術館設立趣意書」を発表するなど、民藝運動とも一時期関わりがありましたが、その後は独自に生活の中の美を探究して陶芸の道を進みました。今回の『奈良県美から始める展覧会遊覧』では、当館所蔵の富本作品の中から選んだ10数点を展示していますので、富本憲吉の優れた造形をご堪能いただければと思います。画像の《赤地金銀彩羊歯模様 蓋付飾壺》(1953)は、富本が完成させた金銀彩の技法による秀作ですが、植物モチーフの模様を洗練されたリズミカルなパターンへ昇華させたところなどに、ウィリアム・モリスらのモダンデザインに一脈通ずるものが感じられます。

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 また、奈良の陶芸といえば赤膚焼(あかはだやき)も見落とせません。本展では古瀬堯三(七代目)による重厚な作品を展示しています。さらに、奈良県出身の工芸の大家として、螺鈿(らでん)で知られる漆芸家・北村大通、北村昭斎(人間国宝)父子の優美な作品も紹介しています。『奈良県美から始める展覧会遊覧』展は、このような奈良ゆかりの秀逸な工芸作品も鑑賞できる機会となっていますので、ご来館いただければ幸いです。

安田篤生 (学芸課長)