第38回 清凉寺式釈迦如来立像

 東京にある私の工房では、東海地方のさる名刹からご下命をいただきました等身大の「清凉寺式釈迦如来立像」を制作中です。そして、先日、途中経過をご覧にいれるため、お寺に仮安置しました。
 仏伝『増一阿含経』によると、インドのウダヤナ王(優填王)が釈迦を思慕して牛頭栴檀で造らせたのが最初の釈迦如来像といわれます。やがてその像は中国五台山にもたらされ大いに信仰を集めました。宋代に中国へ渡った東大寺僧・奝然がその像を拝観して感動し、987年に中国人仏師に写させた像を日本に持ち帰りました。その像は、奝然没後に五台山清凉寺に安置されて「三国伝来の生身の釈迦像」として篤い信仰を集めました。その後、釈迦本来の思想が求められた鎌倉時代以降に次々と模刻され、そうした像は『清凉寺式釈迦如来立像』として全国に100体近くあるといわれています。
 制作中の釈迦如来像はその流れを汲むもので、ご住職の熱い思いを具現化しようというものです。秋までには完成し、来年春には、開眼法要が行われる予定です。その節はまたご報告します。

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2022年6月5日
奈良県立美術館館長 籔内佐斗司