現在開催中の開館50周年記念企画展『富本憲吉展のこれまでとこれから』では、約180件の作品を展示しています。件数のうえでは先輩方が手がけた開館記念『富本憲吉展』(なんと406件)や1992年の『近代陶芸の巨匠 富本憲吉展―色絵・金銀彩の世界―』(こちらで252件)にははるかに及びませんが、今回は遠方からの作品借用も叶い、25年ぶり、あるいはそれ以上の年数を隔てて当館に陳列される作品も含まれています。猛暑の日々ではありますが、この機会に一人でも多くの方に作品をご覧いただきたいと願うところです。
さて当館所蔵・寄託の富本憲吉作品を担当するようになって13年の間、幾度も作品を展示してきましたが、どう展示するのが最良なのか悩むことがしばしばあります。色絵の飾箱はその一つ。その理由は、箱の内側、時には底面にも絵付けが施されていることがあるからです。蓋を閉じた状態の形も見てもらいたい、けれども内側の華やかな絵付けも紹介したい。どちらを主体に展示するべきか、悩みながら決めていきます。
例えば今展出品作品のひとつ、《色絵染付菱小格子文長手箱》1941年・国立工芸館蔵(出品番号62)は、外見上は染付の斜め格子と赤の色絵による斜め格子のみが描かれたシンプルな箱です【図版1】。ところが箱の内側には敷き詰めるように四弁花模様が絵付けされていて、蓋を開けた時の印象は鮮烈の一言に尽きます。今回の展示では素直に蓋と身を分けて配置しているので【図版2】、内側の四弁花模様もじっくり見ていただきたいと思います。
【図版1】蓋を閉じた状態の《色絵染付菱小格子文長手箱》1941年・国立工芸館蔵
【図版2】第2展示室にて展示中の同作品
当館の所蔵品ですと、1945年作の《色絵四弁花更紗模様六角飾筥》(出品番号103)も展示に悩む作品の代表格と言えます。蓋の上面を彩る紫・黄・緑の三色の四弁花模様と側面に絵付けされた赤の斜め格子という、外側だけでも十分に華やかな作品です【図版3】。ところが箱の内側、さらには底面にも六弁花が絵付けされていて、富本がこの作品に注いだ情熱を感じます。合口にまで雷文のような模様を絵付けするという念の入れようですが、この部分をじっくり見ていくと一辺だけ菱模様が絵付けされているのに目が止まります【図版4】。どうしてわざわざ違う模様を?と疑問に思う部分ですが、蓋の内側を見ていくとやはり一辺だけ菱模様の絵付けがあります。考えられるのは身と蓋を合わせる時の目印ではないかということ。とはいえ私自身は他の蓋物の作品で類例を見たことがありません。作品の形や大きさによってこうした工夫をしていたのか、それとも年代的なものなのか、あるいはたまたま気が向いての絵付けだったのか。これから内側も絵付けされた作品を見るときには注意しなければと思わされるところです。
【図版3】《色絵四弁花更紗模様六角飾筥》1945年・当館蔵
【図版4】身の合口の一部に菱模様が絵付けされています
飯島礼子(指導学芸員)