犬の唄

解説

 柳原義達(やなぎはらよしたつ)は神戸に生まれ、父が現在の大和郡山市の出身であった関係から、奈良で過ごした子供の頃の深い思い出を記憶している。中学時代に見たロダン(1840~1917)やブールデル(1861~1929)の作品集で彫刻の美に魅せられ、日本画から彫刻を志し、東京美術学校彫刻科を卒業。戦前は、在野団体の国画会同人や新制作派協会彫刻部創立会員として活躍した。戦後の昭和28年には私費で渡仏し、ブールデルの弟子のエマニュエル・オリコストに師事した。造型の基本から学びなおす再出発であった。そして、具象彫刻を大きく推進し、日本の具象彫刻を代表する一人である。
 本作は、「犬の唄」シリーズの代表作であり、思いきったデフォルメと荒々しい肉づけで自然や生命の本質に迫り、緊張感と重厚な量塊感を持った作品である。「犬の唄」は、普仏戦争に敗れたフランス人の反省と抵抗精神を表したシャンソンで、それをうたう歌姫の身ぶりがヒントになったという。「犬の唄」という主題をかりて造型しようとしたこの作品は、柳原自身のアイロニーとレジスタンスの表現であった。また、そこには、彫刻家として淋しい孤独な創造の道を歩き、生のあかしとしての造型を探求する柳原の姿がうかがえる。

 


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