奈良新聞掲載記事集

令和5年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和4年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和3年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和2年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

シクラメンの栽培

 秋も深まってくると、店頭にシクラメンを見かけるようになります。国内では最も出荷量が多い鉢花で、奈良県では桜井市や橿原市、宇陀市などで生産されています。赤やピンクの花という印象が強いシクラメンですが、近年は青に近い紫色や黄色、また、八重咲などユニークな花型の品種も育成されており、バリエーションが広がっています。オリジナル品種を持つ生産者も多く、シクラメンに関しては、日本の育種技術は世界の最先端にあるといえるでしょう。
 ところで、シクラメンが球根植物であることは良く知られていますが、種子から栽培されていることをご存知でしょうか。品種や鉢の大きさで異なりますが、多くのシクラメンは出荷する前年の11~12月に種を播いて育て始めます。家庭でも、条件が良ければ開花後に結実することがあり、そのまま育てていると、やがて丸い実の先端が裂けて茶色い種子がこぼれ落ちてきます。発芽までは光を嫌う性質があり、播種後、覆土をして湿度を保ち、20℃前後の暗黒条件に置くと、1か月ほどで発芽します。他の植物と違って、まず小さな球根が形成され、その後、葉が展開するので、初めてご覧になると驚かれるかもしれません。生産者が栽培する場合には、その後、成長に合わせて2~3回植え替えを行い、約1年をかけて出荷できる状態にします。
 このように栽培期間の長いシクラメンですが、最も難しいのが夏越しです。近年の猛暑は人間も大変ですが、生育適温が15~20℃のシクラメンにとっては致命的な暑さなのです。原種に近い種類のシクラメンは夏に休眠して球根だけで過ごす性質がありますが、秋から冬に開花させるには、夏も休眠させずに育てる必要があり、この時期の気温をなるべく低く保つ工夫が求められます。農業研究開発センターでは、現在、遮光やミストによる冷房を組み合わせた高温対策の研究に取り組んでいます。

 

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             出荷直前のシクラメン

【豆知識】

 シクラメンを室内に置くと、「葉がすぐに黄色くなった」とか、「急に萎れた」という話をよく聞きます。多くの場合、室内の光量では株を維持するだけの光合成ができず、余分な葉や花を枯らして生命を維持しようとするのです。贈答用の豪華なシクラメンは花数も葉数も多く、弱光では、より枯れやすくなります。室内でも長持ちさせるには、なるべく気温の低いところに置くことがポイントです。暖房で25℃くらいに維持されている室内では、3週間程度で観賞価値がなくなる可能性がありますが、少し暗くても気温が10℃前後であれば、より長期間品質を保つことができます。5℃以下では低温障害を起こす可能性がありますが、気温の低い玄関に置き、天気が良い日は外に出して日光に当てるのもおすすめです。シクラメンはすぐにダメになると思っている方は、一度、置き場所を工夫してみてはいかがでしょうか。うまくいけば、春まで花を楽しむことができます。

平成30年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」



奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。