奈良新聞掲載記事集

令和7年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

コムギのデンプンの話 New!

 コムギは世界最古の農作物とも言われ、現在もコメ、トウモロコシと並ぶ世界で最も重要な穀類の一つです。コムギには主成分のデンプンが約70%含まれており、コムギのみが持つタンパク質のグルテンとの組み合わせで、その食味に大きな影響を及ぼします。
 コムギのデンプンは、コメなどと同様にアミロースとアミロペクチンという2つの多糖類で構成されます。どちらも多くのグルコース(ブドウ糖)が繋がった構造をしていますが、アミロースはグルコースが1本の鎖のように連なった形状をしているのに対し、アミロペクチンはグルコースが房状に複雑な繋がり方をしています。それぞれの割合は植物により異なりますが、コムギのデンプンでは、アミロース21-27%、アミロペクチン73-79%の割合になります。
 デンプンは水に溶けず沈殿する粉という語源があるように、水を加えても溶けずに白く濁り、やがて底に沈みますが、混ぜながら加熱していくと次第に透明感が出て粘りが出てきます。この時デンプン内では、緊密に絡み合った状態のアミロースやアミロペクチンが、熱せられることで水を含んで緩んでほぐれてきます。こうしてデンプンが十分に水を含んだ状態を「糊化(こか)」と言い、植物の種類によって糊化しやすい温度が異なります。また、デンプンを加えた後更に加熱を続けると液のとろみ感が失われるように、糊化したデンプンは熱をかけ過ぎると糊化が崩れて粘りを失うことがあります。この現象をブレークダウンといいます。コムギのデンプンは、他のデンプンと比べて糊化温度が比較的高く、パンを焼く際などでもゆっくりと糊化していき、加熱が進んでブレークダウンが生じても粘性を保ち続けるという特徴があります。高温で焼き上げるパンやケーキなどの材料にコムギが使われ、コメなどのほかの穀類では、グルテンを添加してもコムギと同等以上においしく焼き上げるのが難しいのは。このためです。

【豆知識】

デンプンの老化を防ぐ方法
 デンプンが水を失い硬くなっていく現象を、デンプンの「老化」と言います。デンプンは冷えてくると老化が進みますが、特に5℃付近で最も早く老化が進行します。ご飯を冷蔵庫に入れておくと固く不味くなるのはこのためです。老化を抑制するために、保水力のある糖類を加える方法が古くから知られ、和菓子などで活用されてきました。最近では、トレハロースという糖アルコールが強力な保水作用を示し盛んに利用されるなど、デンプンの老化抑制技術が発達し、冷めてもおいしいおにぎりなどが、商品化されています。
家庭でご飯やパン、うどんなどを保存する際には、できるだけ素早く冷凍することで、デンプンの老化を抑えることができます。また、デンプンは温め直すと、再び糊化を促進させることができます。例えば冷えたご飯は電子レンジ等を用いて軽く加熱すれば、元のふっくらした食感が戻り、おいしく召し上がることができます。

(写真:コムギ(はるみずき)のデンプン粒。大きさの異なる粒子が混在するのがコムギデンプンの特徴)

1

令和6年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和5年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和4年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和3年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和2年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」



奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。