奈良新聞掲載記事集

令和6年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和5年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

茶の歴史について

 茶は古くから利用されてきた植物です。例えば、前漢時代紀元前59年の「僮約」(どうやく)に「荼を烹(に)る」などの文章があります。この「荼」は茶の意味で書かれているとの説もあることから、この時代の中国では茶が利用されていたと考えられています。
 西暦760年頃、唐で人類初の茶に関する書物として、陸羽が著した「茶経」が世に出ました。この本には、茶の起源、製茶道具、製茶法と品質の目利き、飲茶用具、茶を煮出す注意点、過去の資料集、茶産地など多岐にわたる内容が書かれています。この頃には飲用の方法がはっきりと見て取れます。
 日本では、最澄が805年に唐から種を持ち帰り比叡山麓に植えたことや、空海の高弟である堅恵が806年宇陀市内に茶種子を播いたなどの伝承があります。飲用の確かな記録としては、「日本後紀」に815年滋賀県において僧永忠が嵯峨天皇に茶を勧めた一文があります。この頃の茶は古い茶の形態すなわち餅茶(円盤状に固めた団茶の一種)を搗(つ)き砕いたものを湯に入れ飲用したそうです。その後鎌倉時代の僧栄西が宋から帰国した1191年に点茶法(抹茶法)(茶の粉に湯を注ぎ淹れる方法)を導入しました。なお、現在の抹茶の製法は、桃山時代以降に確立されたと言われています。
 では、皆さんがよく飲んでおられる煎茶はいつ頃から作られるようになったのでしょうか。実は意外と新しく、1738年に山城国(現京都府)宇治田原の篤農家永谷宗円が製造法を発明したことが史実として残っています。この茶を江戸で販売したことで広く普及しました。作り方は、新芽を蒸し急速に冷却した後、焙炉(ほいろ)上で手揉みを行いながら乾燥し仕上げます。現在は機械化されていますが基本的な作業手順は昔と同様です。 このように茶は現在まで伝えられ愛されているのです。
 参考文献:農山漁村文化協会編.茶大百科1..2008.社団法人農山漁村文化協会.

【豆知識】

 チャ(茶)はツバキ科の植物です。花は白く9月以降に開花します。花が咲いた後に種子ができますが、その種子は開花から1年以上かかって翌年10月中旬以降に成熟します。 昔はこの種を播いて茶畑を増やしました。昭和30年代頃まで実施されていたそうですが、現在はこの方法ではありません。
 では、なぜ現在は種を播いて増殖しないのでしょうか?それは、種子を集めるだけでも大変であり、またそれぞれの樹々が同じ特性を持つものにならないからです。チャは自家不和合性(自分の花粉で受精ができない性質のこと)が強く、種子繁殖では特性を統一できません。このため現在は簡単に増殖できかつ品質が揃う挿し木での生産が基本です。この挿し木繁殖の基本は奈良県農業試験場(当時)の押田幹太氏が1936年に発表しました。私たちがおいしいお茶を飲めているのは彼をはじめ多くの先人達のお陰と言えます。

(写真:チャの花・果実・種子(左から))

1

令和4年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和3年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和2年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成30年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」



奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。