奈良新聞掲載記事集

令和7年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

クリの害虫とその天敵 New!

 殺虫剤のみに頼らず、害虫の天敵を利用して農作物を守る取り組みが注目されています。奈良県内でも、ハウス栽培のイチゴに製品化された天敵昆虫を放ったり、露地のナス栽培で畑の周りから自然に集まる天敵を保護し、殺虫剤の使用を減らしながら害虫を抑える取り組みが進められています。これらは畑の中に「食う−食われる」の関係を人の手でつくりだす取り組みといえます。
 一方、日本に天敵が少ない外来の害虫に対しては、その害虫の原産地で活動している天敵を持ち込んで定着させ、日本の自然の中に新たな「食う-食われる」の関係を作り出すことで、永続的に害虫を抑える取り組みが行われたことがあります。そのひとつとして、クリの新芽に卵を産み、こぶ(虫えい)をつくって大きな被害を与える「クリタマバチ」への対策が知られています。こぶになった新芽は生長せず、実もつかなくなります。1941年に国内で初めて確認されたこの害虫は、20年あまりで全国に広がり、奈良県内のクリ園でも被害が発生しました。殺虫剤はこぶの中にいる幼虫には届かず、クリタマバチに抵抗性をもつ品種も次第に効果が薄れるなど、対策が困難でした。
 そこで1982年、クリタマバチと同じ中国原産の寄生バチ「チュウゴクオナガコバチ」が茨城県で放飼されました。このハチはこぶの中のクリタマバチの幼虫に卵を産みつけ、その体を食べて生長し、最終的に死に至らせます。放飼後10年ほどでクリの被害は激減し、収穫量も回復しました。以後、チュウゴクオナガコバチは全国で放飼が試みられ、奈良県内では東部の山間地を中心に定着が確認されています。
 このような天敵は自然環境に適応し、害虫が増えればそれに応じて数を増やして抑えるという、安定した関係をつくります。ただし、このような外来の天敵は在来昆虫との競合や、意図しない生物への影響が考えられるため、慎重な計画と長期的な見守りが必要となります。

【豆知識】

 奈良県内東部のクリ園では、「ぽろたん」という品種が栽培されています。渋皮が手でむけて調理しやすく、甘みもある人気の品種ですが、クリタマバチに対する抵抗性はありません。そこで、チュウゴクオナガコバチなど天敵寄生バチの活動が重要な役割を果たします。夏から秋にかけてクリタマバチに寄生したこれらの寄生バチは、クリタマバチを食べて生長し、冬の間、こぶの中で蛹や成虫の状態で過ごし、春に羽化します。冬の剪定時にこぶのついた枝をすぐに処分せず、園内に春先まで残しておくことで、寄生バチの羽化と拡散を助けることができます。クリタマバチは、6月~7月頃にかけてこぶから成虫が出てくるため、剪定した枝は寄生バチの羽化後に処分します。こうした環境を整えることで寄生バチの数が安定し、殺虫剤に頼らずクリタマバチの被害を抑えることができます。

(写真:クリタマバチの虫えい)

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奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。