奈良新聞掲載記事集

令和7年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

世界の柿生産 New!

 実りの秋、秋と言えば柿、今年も柿の季節になりました。今回の「農を楽しむ」では、世界の柿生産について紹介します。
 はじめに柿の植物としての特徴をおさらいすると、柿が含まれるカキノキ属には世界中に約700種の植物が存在すると言われています。そのほとんどは熱帯や亜熱帯地域に分布していますが、多くは木材に利用されています。日本のような温帯で育ち、かつ果実が食用に広く栽培されているのは主に柿(カキDiospyros kaki)のみです。アメリカガキD. virginianaという別種もありますが、栽培地域は限られています。その「カキ」1種から、これまでに様々な変異や育種などを経て、今では約1000もの品種(‘富有’や‘平核無’など)に分かれています。
 世界の柿生産量をみると中国が圧倒的で、世界の約76%の生産量を占めています(FAO 2021)。柿は中国原産とされているだけあってその歴史は古く、五~六世紀頃の文献には既に柿やその繁殖法について書かれています。多くの品種が中国国内で発達してきましたが、そのほとんどは渋柿品種です。数少ない甘柿の‘羅田甜柿(らでんてんし)'という品種は、湖北省羅田県を中心に分布し、この地域では約千年にも渡って栽培されています。
 続いて、日本から遠く離れたスペインの柿を紹介します。スペイン含め地中海地域には十七世紀に柿が導入されたとされており、スペインでは1990年代頃から生産が拡大しました。ここでは‘ロホ・ブリランテ'という品種が大規模に栽培されています。こちらの品種は渋柿なので出荷時に渋抜きされ、店頭に並ぶものは非常に甘くトマトのような柔らかい食感になります。甘柿の品種は、地中海地域の土壌では栽培が難しいようです。
 海外には他にも様々な種類の柿があります。五條市の柿博物館では海外の品種も展示しておりますので、この秋にぜひ見に来てください。

【豆知識】

皆さんは柿の樹全体の形に注目したことはありますか?果樹の栽培では、樹の性質や作業のしやすさを考慮して樹を仕立てます。日本の柿では枝の開きやすい‘富有’などの品種を「開心自然形」に、逆に枝の立ちやすい‘平核無’などの品種を「変則主幹形」に仕立てることが一般的です。「開心自然形」では、地面から生える中心の幹の高さを60~90cmとし、2~4本の主枝を広げて配置させます。樹の内部が混み合わないため、よく光が当たり通気性も良く、また樹高が低いので作業が効率的にできるという利点があります。一方、「変則主幹形」では中心の幹の高さを2~3mとし、4~5本の主枝を配置します。「開心自然形」よりも枝が多く、樹が大きくなりやすい傾向があります。地中海地域の柿栽培では、強過ぎる日差しから果実を守るために、「開心自然形」よりも枝葉の多い「変則主幹形」に仕立てることが多いようです。(写真:樹形の種類 変則主幹形と開心自然形)

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令和6年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

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平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」



奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。