奈良新聞掲載記事集

令和7年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

想いを運ぶ花 New!

 街がイルミネーションに包まれる季節になり、花屋の店先も一層にぎやかになってきました。クリスマスに花束を贈ろうと思っている方も多いのではないでしょうか。クリスマスをイメージする真っ赤なバラや、華やかなダリアなど、店頭に並ぶ切り花はどれも美しいものですが、その状態が保たれているのは、生産者から市場、そして花屋まで、それぞれが品質保持に尽力した結果だと言えます。切り花は収穫後も呼吸や蒸散といった生理的な活動を続けており、そのままの状態ではすぐに萎れてしまうため、収穫後から販売までの適切な管理が品質保持にとって極めて重要になります。
 産地で収穫された花は、まず水揚げを行い、切り花の水分状態を健全に保ちます。この時、必要に応じて糖や抗菌剤、さらに老化を促進するエチレンの働きを抑える鮮度保持剤などを併用し、出荷後の品質をできるだけ保つ工夫がされています。次に段ボール箱に梱包されて、市場に向け輸送されますが、その輸送方式は乾式と湿式に分けられます。乾式は切り花を新聞紙やフィルムに包み梱包する方法で、軽量で水漏れの心配が少なく、キクなどの比較的品質が低下しにくい花の大量輸送に適しています。一方の湿式は縦置きした段ボール内に水を入れた容器等を設置し、水分を供給しながら運ぶ方法で、萎れやすい花でも品質を保ったまま輸送することができます。
 こうして運ばれた花は市場を通じて全国の花屋や量販店に届けられます。届けられた花は呼吸や蒸散による消耗を抑えるため、低温のショーケースなどで保管されています。その後、要望に合わせて長さや色合いを整えながら花束やアレンジメントに仕立てられ、ようやく私たちの手に届けられます。クリスマスを彩る花には、花を贈る人だけでなく、届けられた花をできるだけ長く楽しんでもらいたいという、たくさんの人の想いが込められています。

【豆知識】

 花を贈るきっかけは、実は身近なところにたくさんあります。例えば1月31日は「愛妻の日」と呼ばれ、日頃の感謝を込めてパートナーに花を贈る動きが広がっています。2月14日はチョコレートだけでなく、男性から女性に花を贈る「フラワーバレンタイン」として広まりつつあり、赤いバラの花言葉「情熱」など、想いに合った花を選ぶことで、言葉にできない気持ちを伝えられます。3月8日は「ミモザの日」とされ、日本ではあまり馴染みがないですが、黄色いミモザを贈り合う習慣がイタリアから世界各地に広がっています。さらに3月14日のホワイトデーには、お菓子に花を添えることで、より心のこもったお返しになります。
 たとえ一輪でも、気持ちを込めて贈れば、花は長く心に残る贈り物になります。普段花を買う習慣がなく、敷居が高いと感じている方も、こういった日を口実に、大切な人に花を贈ってみてはいかがでしょうか。

(写真:湿式で輸送されるダリア)

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平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」



奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。