奈良新聞掲載記事集

令和6年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和5年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

小麦を食べる

 小麦は世界三大穀物の一つに挙げられています。「小麦の食べ方は?」と問われた場合、多くの方は、ほぼ間違いなく、粉にした小麦粉を水などで練って、そのまま、あるいは発酵させて焼いたり、煮たりして食べる方法を想像されるでしょう。このように小麦粉を使った料理は世界中で親しまれています。
 では、小麦を粒のままで食べることはあるのでしょうか?小麦の実は外側が大変堅い皮に覆われていて、茹でても炊いても一向に柔らかくならないので、一般的にはおいしくないとされています。大麦は粒のままでも食べやすい穀物ですが、小麦の歴史はおいしく食べるための製法の歴史でもありました。栽培が始まった頃は押しつぶした小麦をお粥にして食べていました。その後、石臼が発達して小麦粉が作られるようになりました。小麦粉と水をよく練ると、グルテンという弾力と粘りのある物質ができます。生地が発酵してできるガスをグルテンが逃さず抱え込んで、ふっくらと膨らんだパンが焼けるようになり、また、コシがあって食感の良い麺ができるなど、用途が大きく広がりました。
 当初は小麦の粒をまるごと粉にした全粒粉が利用されていました。堅い皮をうまく取り除き、胚乳部分をきめ細かい粉にできるように製法が進歩してようやく、私達が日常的に目にする白い小麦粉ができました。製粉工程を経由しないと口にすることができないのが、他の農産物と小麦の大きな違いと言えます。
 一方で、小麦を粒のまま食べる珍しい料理として、潰した小麦ともち米を混ぜて搗いた半夏生餅(はんげしょうもち)というものがあり、奈良県の郷土食として知られています。小麦の収穫と田植えが無事に終わった感謝と、その年の豊作を祈って食べるとされています。さなぶり餅とも言われています。小麦の皮のプチプチした食感があり、粘らず歯切れがよく、消化も良いため胃もたれしにくいと言われています。この時期になると県内の直売所や道の駅などで売られています。

【豆知識】

 奈良県では、これまでの小麦の奨励品種は「ふくはるか」で、うどん向きの中力系の品種でした。お好み焼きや製菓用途としても使われていました。その一方で、用途が多く、粘りの強い強力系の小麦品種の導入を求める声が高まり、また、小麦生産に対する補助金の面でも有利になることから、当センターでは、本県の気候でよく育ち、パンの製造に適した品種の選定を進めてきました。その結果、令和3年にパン・中華麺向けの強力系品種「はるみずき」を選び、本県の奨励品種に採用しました。その後、2年間かけて100ヘクタール分の種子を増殖しています。令和5年11月に種まきを行い、翌年6月に収穫される県内の小麦はほぼ「はるみずき」に置き換わります。令和6年の冬頃から、学校給食用パンやベーカリーショップでこの新しい品種の小麦粉が使われるようになる予定です。

(写真 左:新しい品種「はるみずき」の穂は白いのが特徴です。右:半夏生餅はきなこをかけていただきます。)

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令和4年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和3年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和2年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成30年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」



奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。