奈良新聞掲載記事集

令和6年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

渋味成分について

 「渋味」と聞くと、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。ブドウ、紅茶、渋柿など、渋味を感じる食べ物はいくつかあります。渋柿がわかりやすい例ですが、強い渋味を感じたときの独特の感覚は、あまり快くないものです。例に挙げた渋味の数々は、いずれも「タンニン」と呼ばれる成分によるものですが、タンニンには様々な効能があることが知られています。今回ご紹介するのは、渋味のもととなるタンニンの機能と効果についてのお話です。
タンニンは、先に挙げた柿などのほかにも多くの植物に含まれている成分で、植物により実や皮、種子など色々な部位に含まれています。元々は皮革をなめす作用のある成分に対してタンニンと呼んでいましたが、これはタンニンとタンパク質が強く結合する性質によるものです。皮革なめしは動物の皮膚のタンパク質に作用して耐久性と柔軟性をもたせる効果であり、他にも清澄剤として清酒の濁りを沈殿させて除去するなど、この性質は古くから産業に利用されてきました。口に含むと感じる渋味も、タンニンが口腔内のタンパク質に作用して粘膜を引き締める「収れん作用」によるものです。
また、タンニンは健康面でも機能性に富んでいます。タンニンはポリフェノールの一種ですので、他の多くのポリフェノールと同様に抗酸化作用などの健康機能性をもっています。昨年も和歌山県で、「種なし柿」1個分に相当する量のタンニンに悪玉コレステロール値を低減させる効果があるとして、機能性表示食品の届出がされました。一方で、最近では渋味そのものに対しても評価が見直されてきています。料理にごく少量渋味があることで味わいに深みが増すといった作用もあり、仕上げの調味料として活用できる可能性が見いだされています。このように、タンニンは健康にもおいしさにもプラスになる機能をもっています。

【豆知識】

柿渋用の柿の話 
 渋柿を発酵させて作る「柿渋」は、防虫作用などのために古くから衣類など日々の生活用品に使われてきました。現在でも、消臭効果をうたった柿渋入りの石けんや歯磨き粉などを見かけると思います。柿渋の製造には主に渋柿の未熟な果実が原料として使われますが、中でも豆柿や法連坊といった品種で柿渋がよくとれるということで柿渋用品種として利用されてきました。『大和本草』などの文献には、「小さい果実で渋がよくとれる」との記述があります。
 豆柿は果実がドングリ程度の大きさで、私たちが普段食べている柿の近縁種にあたります。盆栽などの観賞用としても利用され、信州地方で柿渋用として広く栽培されてきたことから「信濃柿」とも呼ばれます。冬場の霜が降りる時期になると、熟して渋が抜けるため食用にもなっていたようです。(写真:豆柿の果実)

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令和5年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和4年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

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平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成30年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」



奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。