奈良新聞掲載記事集

令和6年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和5年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和4年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

農薬の開発と適正使用

 農薬は、農作物を害虫や病気、雑草から守るために使用されており、最近では、化学農薬だけでなく天敵や微生物を利用したものも開発されています。では新しい農薬を開発するのに、どれだけ経費がかかっているのでしょう? 1つの新しい農薬を開発するには、およそ10年以上の長い期間と200~300億円の莫大な経費が必要です。また開発段階から最終的に新しい農薬として成功する確率は16万分の1以下と極めて低く、1年間に新しく農薬登録される成分の数は10前後しかありません。
 農薬の開発経費の中で特に大きいのは毒性試験です。毒性試験は大きく分けて2つあり、短期間に多量の農薬を摂取した場合の毒性(急性毒性)試験では、口から食べた場合の経口毒性、呼吸で吸入した場合の吸入毒性、皮膚や眼への刺激性試験などがあります。長期間に微量の農薬を摂取し続けた場合の毒性(慢性毒性)試験では、1年間食べ続けた場合の反復経口毒性、発がん性、繁殖毒性試験などがあり、数年以上の長い期間が必要になります。また、ヒトへの影響だけでなく、環境への影響をできるだけ少なくするために、鳥や魚、藻への影響、ミツバチなどの有用な昆虫についての毒性も調べられています。これらの試験の結果から、厚生労働省が残留基準値を設定します。
 毒性試験以外にも、病気や害虫、雑草に対する効果試験、農作物に対する薬害試験、農作物に残留する農薬濃度を調べる作物残留試験などがあり、残留基準値を超えない農薬の使い方(使用前日数、希釈倍数、適用作物など)が決められ、総合的な評価の結果、農薬が登録されます。
 近年、農薬の登録制度に新しい評価方法が加わり、以前まで農薬ラベルに書かれていた作物の名前がなくなっていることがあります。間違って使用すると、農薬取締法違反になりますので、農薬容器のラベルを確認するだけでなく、インターネットなどで最新の情報を入手してください。

【豆知識】 ~「 農薬の歴史」 ~
 江戸時代の寛文年間(1670年)に鯨油や菜種油を水稲のウンカ類の防除に使用したのが、日本での農薬の始まりとされています。それまでは、「虫送り」や「虫除け札」などの祭礼により農作物を守ろうとしていました。明治大正時代になると、西欧文化や新しい科学技術が導入され、除虫菊、硫酸ニコチン、デリスなどの植物由来の天然物や、マシン油、石灰硫黄合剤などの鉱物、ボルドー液などの無機化合物が農薬として使用されるようになりました。その後、第2次世界大戦終了後、殺虫剤のDDT、BHC、パラチオンなどの有機合成農薬が輸入されましたが、毒性が強いため、今では使用禁止になっています。昭和30年代以降は企業や公的研究機関での農薬の研究・開発が進められ、日本独自の新しい農薬が開発されました。現在でも開発された農薬は、日本だけでなく海外でも植物の保護と食糧増産に貢献しています。

令和3年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和2年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成30年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」



奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。