奈良新聞掲載記事集

令和5年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和4年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

令和3年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

薬用作物の修治の話

 「薬用作物」とは、漢方薬の原料などとして利用される作物のことです。スーパーに並んだりはしませんので、馴染みが薄い方も多いとは思いますが、奈良県は昔から薬用作物の重要な産地でした。近年は生産量が落ち込んでいましたが、健康志向の高まりなどを受けて漢方薬の人気が高まりつつあり、原料である薬用作物が再び注目されています。奈良県においても「漢方のメッカ推進プロジェクト」が平成24年より開始され、その一環として薬用作物の生産振興に取り組んでいます。
 薬用作物には多くの種類があり、根、葉、果実または樹皮など様々な部位が利用されます。しかし、収穫物がそのまま使われることは少なく、薬効や保存性を高める目的のため、湯通しなどの加工を経てから利用される場合が多くあります。このような加工は「修治(しゅうち)」と呼ばれ、一般的な作物には無い、薬用作物の特徴の一つです。
 奈良県の主要薬用作物であるヤマトトウキを例として、作業の流れを紹介させて頂きます。まず、12月下旬頃に根を掘り上げ、竹べらなどで軽く土を落とした後、軒下など雨がかからない風通しの良い場所で約1ヶ月間乾燥させます。次に、60℃のお湯を用意し、根を5分ほど漬けておきます。そうすると固く乾燥していた根が柔らかくなってきますので、板の上で転がすようにしながらもみ洗いし、きれいな水ですすぎます。なお、この作業は「湯もみ」とも呼ばれています。あとは再び1~2ヶ月間乾燥させて完了となります。このような一連の作業を経たヤマトトウキは、香りが良く、甘みも強い良品となり、古来から珍重されてきました。
 しかし一方で、収穫後の作業負担が大きくなりがちであることから、手作業での修治作業は薬用作物の栽培振興を考える上でマイナス要因となる場合もあります。今後は機械の導入などによって省力化を図っていくことが重要と考えられます。

ヤマトトウキの湯もみの様子    修治を経たヤマトトウキの根

【豆知識】

 薬用作物の種類によっては、毒性を弱めるために修治する場合もあります。毒草として有名なトリカブトは、鎮痛などの効能を有する薬用作物でもあります。根を利用しますが、その前に念入りな修治で弱毒化することが重要です。修治の方法は高圧蒸気と薬品処理を組み合わせたものですが、適正に行うためには専門的な知識が必要です。
 また、かつて産地であった橿原市地黄町にその名を残す、ジオウという薬用作物があります。肥大した根を収穫し、そのまま乾燥する方法もありますが、酒蒸ししてから乾燥する方法もあり、それぞれ効能が少し異なるとされています。
 このように、薬用作物の特性によって、修治には様々な目的や方法があります。専門技術が必要な場合もありますが、ヤマトトウキの湯もみなど生産者が出荷までに実施する場合もあるので、薬用作物の栽培を始める際には修治の内容についてもよく理解しておく必要があります。

令和2年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成31年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

平成30年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」



奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。