奈良新聞掲載記事集

令和6年度 奈良新聞掲載「農を楽しむ」

イモムシのようなハチ

 野菜や花を育てていると、葉を食べるイモムシに悩まされることはよくありますね。多くの人は、その姿を見るとチョウやガの幼虫だと考えますが、実はハチの仲間、なんてこともあるのです。
 原始的なハチの仲間にハバチ(葉蜂)というグループがあります。ハチと聞くと人を刺すハチを思い浮かべる方が多いかと思いますが、ハバチの仲間は人を刺すことはなく、その幼虫は植物の葉を食べます。日本には約800種ものハバチが生息しており、多くの種は森や草地で穏やかに暮らしていますが、一部の種は野菜や花の害虫となります。 
 例として、春から秋にかけ、ダイコンやキャベツなどのアブラナ科植物の葉を食べるカブラハバチがあります。 この幼虫は黒色のイモムシのような姿をしており、「ナノクロムシ」とも呼ばれています。ガやチョウの幼虫に姿や食べ方もそっくりですが、れっきとしたハチの仲間です。この幼虫は少しの刺激でもポロリと地面に落ち、丸くなって動きません。黒くて動かない幼虫は簡単には見つからないため、外敵から身を守る行動と言えます。
 カブラハバチの成虫は、針のような産卵管で葉の組織内に産卵します。発芽直後の苗に産卵すると、苗の時から被害が発生します。幼虫は成長すると地面に潜り、繭を作って蛹になります。 成虫は体長1cm程度の小型のハチで、鮮やかなオレンジ色の腹部と黒色の頭部を持ちます。植物上を活発に飛び回る姿は、幼虫とは大きく異なります。
 このハバチの被害を防ぐためには、防虫ネットや不織布などで成虫の侵入を防ぎ、産卵させないようにします。その後、幼虫の発生に注意し、発生が確認されたら手で取り除きます。幼虫は人が近づくと葉から落下するため、慎重に取り去ります。また、イヌガラシやナズナなど周辺のアブラナ科雑草が発生源となるため、ほ場周辺の雑草管理も行いましょう。

【豆知識】

 ハチには大きく分けて、腰にくびれがない「広腰亜目」と細くくびれる「細腰亜目」の2つのグループがあり、それぞれ多様な生活をしています。
広腰亜目のハチは、ハバチのように植物の葉を食べるものが多く、毒針の代わりに植物の葉や茎を切り裂くための鋸状の産卵管を持っています。細腰亜目のハチは「寄生バチ」と「カリバチ」「ハナバチ」に分けられます。寄生バチは他の昆虫に卵を産み付け、幼虫がその昆虫の体内で成長するハチです。天敵として市販され、害虫退治に役立っている種類もあります。カリバチは、アシナガバチなど自分の子供のための「狩り」をするハチです。ハナバチは、ミツバチなど蜜と花粉を集めるハチです。ハナバチは、蜜を吸うのに適した管状の口と、後脚に花粉を運ぶのに適したかご状の長い毛を持っています。これらのハナバチは農業では花粉交配の手段として用いられるなど、作業の省力化を図る上で欠かせないものとなっています。(写真:カブラハバチの幼虫(左)と成虫)

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奈良新聞で第2日曜日に連載中の「農を楽しむ」に掲載されたものです。
(平成20年まで「みどりのミニ百科」)
※過去に掲載されたトピックスは時間が経過し、現下と異なる点もございますのでご了承下さい。